一般消費者から国民生活センターに寄せられる住宅関連の苦情や相談が増えている。同センターへの相談・苦情はそのまま社会問題に直結するケースも多い。そのため一般消費者の苦情や相談に対しては、業界もこれまで十分に注意を払ってきた。今後もその姿勢に変わりはないが、気になるのは相談件数の増加が、そのまま紛争増大の意味に取られやすいことだ。
賃貸住宅の原状回復・敷金清算や家賃滞納、住宅ローンに関する苦情・相談は後を絶たないという。中でも賃貸住宅については、原状回復・敷金清算の相談が昨年度の件数を上回るペースで推移しているのが現状だ。
非は貸し主側のみか
近年は特に更新料の是非をめぐる問題や、先日の最高裁判決が出た敷引き特約などもあり、賃貸住宅にまつわるトラブルがクローズアップされる機会が多い。こうした現象がまた、消費者を苦情や相談に駆り立てている面も否定できない。
ただ、苦情・相談というと何かにつけて事業者側や供給側に非があるように受け取られてしまいがちだが、特に契約内容が多岐にわたる賃貸借の苦情・相談については内容をよく精査することが必要で、軽率な判断はできないのではないだろうか。
確かに退去の際に、原状回復費用やクリーニング代に疑問を持ち、退去予定者が不動産業者に説明を求めたり、クレームを付けるケースは半ば常態化しつつあるようだ。しかし、業者の対応が不適切な場合は論外としても、貸主側が十分に清算についての説明をしきれていない場合もあれば、消費者の認識不足、思い違いといったことも、この苦情・相談の中には多く含まれていると思われる。
無用な混乱を避け
無用な混乱を避けるため、不動産会社の中には国民生活センターや消費者向けの相談所を逆に活用して、原状回復・敷金清算に関わる入居者とのトラブルを解決しているところもある。具体的には退去予定者の不満や不信に対して、第三者的なスタンスにある国民センターから直接説明してもらうことで問題を処理してきたという。その結果、ほぼすべてのケースで退去者からその後の苦情・クレームはなくなると言い切る。
賃貸関連でもトラブル防止を目的とする様々なルールや取り組み、自主制度ができているが、運用面ではまだまだ消費者、不動産業者共に判断に迷う場面は多い。
原状回復の指針として東京ルールができ、自然損耗分は貸主負担という大まかな流れがとりあえず明確にはなった。しかし、それ以上に公平かつ詳細な基準を求める声が業界内から挙がっていることも事実だ。
裁判という最後の解決手段に頼るよりは、同じ〝第三者の意見〟でもあるセンターの見解を活用することもトラブル防止には有効だろう。
社説「住宅新報の提言」