脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策について検討が進む。5月19日には第3回有識者検討会が開かれ、省エネ性能基準の引き上げとそれに向けた丁寧な行程表作りの必要性などが共有された。太陽光発電設備の設置義務化には慎重な議論が必要との声も多く、国や地方自治体等の率先した取り組み、国民への周知が急務であるという認識が示された。
3回目を迎えた同検討会では、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた今後の取り組みの進め方に関するたたき台が示された。地球温暖化対策は国民一人ひとりが当事者であり、ZEH等の省エネ住宅のメリットの分かりやすい周知普及を前提とした上で、国民・事業者の行動変容を促すための普及啓発が必要である点が示された。
更に、「省エネ対策の強化」「再エネ導入の拡大」の2つに分けて論点整理を行った。まず住宅・建築物における省エネ対策の強化では、省エネ基準の適合義務化を進めることに各委員の同意が得られたとした上で、義務化のタイミングや水準に関して意見が分かれている現状を指摘。財産権等の侵害とならないよう丁寧な制度設計や審査側の手続き負担の軽減など配慮すべき事項を確認した。このほか、省エネ性能のボリュームゾーンのレベルアップや省エネ性能表示の義務化の必要性、既存ストック対策としてのリフォームに適用しやすい建材等の開発、改修支援と建て替え支援などを念頭に置いた取り組みの方向性が示された。
各委員からは新築住宅に対する省エネ基準の適合義務化、より高い水準へ誘導するための財政支援措置の必要性などが指摘された。達成目標値が引き上げられた状況を鑑み、大胆な政策が必要となるという意見の一方で、「国民への住宅性能表示の理解浸透や事業者側の説明能力の向上、自治体の積極的関与などベース部分の醸成が不十分なままギアを上げると大混乱に陥る。国民への周知が一番の課題」という指摘があった。加えて、既存住宅の省エネ改修については新築住宅以上に難しさとボリュームがあることなどから、公共施設や共同住宅への優先的な取り組みや、国が予算を確保して自治体の取り組みを促す支援策の必要性が指摘された。
再エネ導入については、住宅への太陽光パネル設置の義務化を巡って賛否が分かれた。慎重派の主な意見は「住宅にリスクを負わせる前にやり尽くしていない」「後発建築物が既設置パネルの日照条件を悪化させた際の責任問題について議論が不十分」などで、「まずは自治体庁舎や学校など公共施設で範を示すべき」という意見が多く出た。他方、全体としては再エネ導入への対応の必要性を共有しており、「将来的な義務化を見据え、何年後までにその下地となる取り組みを達成していくのか丁寧な行程表づくりが必要。蓄電池やバイオマスなどの活用も併せて考えていくべき」との指摘があった。
委員の平井伸治鳥取県知事は、住宅の省エネ対策を進める上で従来の年度予算の建て付けでは対象住宅が限定的になるとし、「通年で活用できる補助制度と予算枠の確保が必要」と説明。更に自治体独自の取り組みに対する支援制度の創設を要望した。