政策

おためし移住 ワープステイという提案(6) 住み替える意義 都会に住む高齢者の力を地方に

 連載を終えるにあたり、都会のオフィスで長く働き続けたサラリーマンにとって、田舎暮らしの魅力とは何かを改めて考えてみたい。

田舎への衝動

 一つは、「体を動かす仕事」への憧れだと思う。ホワイトカラーと呼ばれる人たちの仕事は煎じ詰めれば、情報の整理と文書の作成だ。つまり、言葉と論理を働かすだけである。

 それに対し、田舎での農作業や空き家再生、趣味が高じての蕎麦屋開業、イベント開催の手伝いなどどれも、体力の支出と仕事の成果が直結している。

 人間はデスクワークをどれほど重ねても、いや重ねる時間が長ければ長いほど「仕事をしている」という充実感からは遠のいていく生き物なのではないだろうか。

 二つ目は、都会には存在しない「共同体(相互扶助)」に対する共鳴ではないか。昨今は都会でも、カーシェアなどモノを共有する発想が注目を集めている。生活に必要な道具をすべて自己所有することに対する反省でもある。

 都市では、たとえ集合住宅に住んでいても、そこは〝共同体〟ではないから、どの住戸(世帯)にも一から十までの生活道具一式がそろっている。そうではなく、どうせ同じ屋根の下に暮らすのであれば、キッチンや浴室、トイレなどは共有にして、自分だけが必要とするものだけを個室に置くようにした方が合理的であり低コストで暮らせる。そうした発想から生まれたのが、最近人気のシェアハウスである。

 各人が個々に同レベルの生活をするために多大なコスト(労力)をかけるよりも、自分らしさを追求する部分にのみコストをかける方が、本当は豊かな生活が実現できるのではないか。

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助け合う魅力

 田舎にシェアハウスがあるわけではないが、ワープステイ構想の根幹にあるのは、都会からの移住者と、彼らを受け入れる地方(田舎)が互いの役割を認識し、地域再生という目標に向けて協力し合う「相互扶助」の精神である。

 地方にはない人材や情報は移住者組が提供し、移住者の野菜づくりや日常の生活は、それこそ地元の共同体が補佐する。そうした、都会と地方の交流が継続的に維持されることによって、日本再生につなげることができる。

 地方再生という高い理想を抱きつつも、ワープステイではまず、「住み替え」という第一歩」を踏み出してもらうため定期借家権を活用するところが最大のポイント。

 「失敗しても戻ってこられる場所(自宅)があるという安心感がきわめて重要」(大川陸治ワープステイ推進協議会理事長)というわけだ。

 田舎暮らしを実行するまでにはさまざまな迷いがある。しかし、まずは生活の拠点を変えてみる。違うところに住んでこそ、今までの自分が見えてくる。ワープステイは、長い都会生活とサリーマン的仕事を続けるうちに自分を見失ってしまった定年退職者が、もう一人の自分を探すための旅でもある。

健康こそが価値

 日本人の平均寿命は男80歳、女86歳。定年後の人生が長くなったということは、それまでの人生を振り返り、その後始末、帳尻合わせをする時間が持てるようになったということ。退職後の人生の目標を明確にもてば、そこに生きがいが生まれ、最期まで健康で生きる可能性が高まる。ワープステイが目指す重要な目標の一つがそうした健康寿命の延伸だ。

 高齢者が要支援・要介護状態になる確率を年代別にみると、グラフのように75~79歳で13.5%である。同じデータの09年調査によれば、85~89歳でも46%と5割を切る。住み替えによって生活拠点が変わるだけで生活習慣病からの脱却も可能となる。超高齢社会を克服する最強の政策は、最期まで元気な高齢者を一人でも増やすことである。 ワープステイは、高齢者に早めの住み替えを促すことで、日本に元気と明るさを取り戻そうとする提案である。 (本多信博) おわり

 この連載はワープステイ推進協議会からの呼び掛けに本紙が賛同。同協議会の大川陸治氏と不殿武士氏、田舎暮らし実践者の佐藤薫氏、本紙の本多が担当しました。