法令順守とか職業倫理とも言われるコンプライアンスだが、法令はともかく倫理については守るべき基準が明確に決まっているわけではない。世に幾多ある定義はそのありようを包括的に述べたものに過ぎない。最終的には、コンプラは個々のプレイヤーとしての生き方の問題である。
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6月25日に開かれた不動産流通プロフェッショナル協会(FRP、真鍋茂彦代表理事)の講座からコンプライアンスとは何かを考えてみよう。
不動産業界についていえば、「日本よりはるかに職業倫理が厳しいのがアメリカだ」と基調講演をした竹井英久氏(セゾンリアルティ会長)は言う。例えばその実務基準には「依頼者の自由意志の尊重」というのがあって、購入の決断を急がせる言動は禁止されている。また、リフォーム業者など周辺業者からの金銭(リベートなど)の授受も厳禁である。いずれも日本では多かれ少なかれ行われているのではないか。
そもそも、米国では州のライセンス取得により不動産売買業務に携われるが(その中でNARの倫理憲章・基準に誓約した者がREALTORを名乗ることができる)、日本では宅建士資格保有者でない無資格者でも仲介業務が可能だ。つまり、コンプラの最低限とも言える法令の整備という面でも日本とアメリカの違いは歴然としている。
竹井氏は言う。
「日本は宅建業法にあることだけを守るとの傾向が強いが、アメリカでは職業倫理を基礎にした業界による自主規制が主体になる」
アメリカと日本とのもう一つ大きな違いは、アメリカのリアルター(不動産エージェント)は個人事業主だが、日本の宅建士は企業に属する有資格者となる。だからアメリカのエージェントは基本的に個人の信用力で仕事をしているが、日本の宅建士は所属する会社の信用力で仕事をしている。竹井氏は基調講演の最後にこう語った。
「私がなぜこのようにアメリカの事情を語っているかといえば、これからは日本も会社の信用ではなく、宅建士個人の信用でやっていくべきと思うからだ」と。
バランス力
東急リバブル顧問で橋本不動産コンプライアンス研究所代表の橋本明浩氏はこう語る。
「あとでトラブルになりそうな取引を『やめといたほうがいい』と言うのは簡単だ。しかし、企業としてそれは大きな利益を上げられたかもしれない機会を損失していることにもなる」
だから、不祥事防止には利益確保という「動機」、一般の物販業に比べれば極端に少ない「成約の機会」、その2つに対抗する「正当性」という3つの要素を均等に保つバランス力が重要だと指摘する。
3番目の講師として登場したNextBRANDING社長の佐藤雄樹氏は相続コンサルティングのプロフェッショナルだが、利益重視の不動産業の延長というイメージを払拭するため、あえて宅建業の免許は取得していない。 講演内容は個別事例の細部にまで渡ったが、相続コンサルはまさに個別事情のオンパレード。一つとして同じ答えが当てはまるものはない。
その中でリスクを測り、正確な知識で〝最適解〟を見つけることは至難の技とも言える。だから佐藤氏は「結局、最後は仕事とは何かに行きつく」と語る。
佐藤氏は「困っている誰かのために、問題解決のサービスを提供することが仕事」だとして、問題解決に最善を尽くすことこそコンプライアンスだと定義する。
筆者もコンプラが倫理の問題だというなら、それはやはり会社の姿勢というよりは、個人の心、生き方の問題に近いのではないかと思う。
竹井氏が言う「これからは個人の信用で仕事をする時代」を不動産仲介市場で実現するためにも、上級宅建士を目指す一人ひとりが「コンプライアンスとは何か」を真剣に考えるときが来ているということだと思う。