住宅新報社と不動産経済研究所は共同で、住宅・不動産業を柱とした経済活性化のため、「いまこそ前を向いて進もう~輝く未来への確かなメッセージ」と題した連載企画を始めます。前田武志・国土交通大臣と業界主要企業トップによる対談を通じて、政策を探ります。第1回は三井不動産会長・岩沙弘道氏。テーマは「成長戦略をどう築き上げるか」です。
■まちづくりで重要な点
前田大臣 東日本大震災からの復興については、「災害には上限がない」、「何としても国民の命を守る」という考えのもと、インフラ・住宅・交通等を所管する国土交通省が先頭に立って、これまで中心的だったハード施策による防災対策に加え、低頻度で大規模な災害に備えて、ハード・ソフトの施策を組み合わせてまちづくりに取り組んでいきます。
また、人口減少、少子高齢化、震災を契機としたエネルギー制約等の課題を克服し、我が国の明るい未来を築くために、持続可能な社会の実現等の4つの価値、低炭素・循環型システムの構築や「医職住」の近接した地域の集約化等の8つの方向性を基に、持続可能で活力ある国土・地域づくりを推進することが不可欠であると考えています。
このため、官民の連携を図りながら、具体的な施策を講じるとともに、本年の半ばに取りまとめる予定の「日本再生の基本戦略」に的確に反映させていきたいと考えています。
岩沙会長 東北地方は、東日本大震災の発生前から、人口減少や高齢化、自治体の財政難等、日本の構造的な課題について、より厳しい状況にありました。被災地の復興を、単に元通りの姿に戻すのではなく、これらの課題を解決し日本の創生につなげるモデルとしなければなりません。そのためには、次の観点から復興を推進することが重要です。
1点目は、住まい、行政、商業、医療・福祉施設等を集約するコンパクトシティ化です。
2点目は、太陽光発電に加え、排熱や地中熱等の未利用エネルギー等の利用促進や、まち全体のエネルギーの効率的運用を実現するスマートシティ化です。
3点目は、ハードの復興にとどまらず、雇用を創出する新産業を含めた産業復興です。
■政府の復興支援策
前田大臣 国土交通省としても政府の復興基本方針や被災地の実情を踏まえ、(1)平成23年度第3次補正予算や平成24年度予算案による防災集団移転事業の大幅拡充、復興道路・復興支援道路の緊急整備(2)東日本大震災復興特区法における住宅地と農地の一体的に交換・整備する事業等を進めていきます。
また、復興事業に当たっては、被災市町村の事務負担が増大することが見込まれることから、被災市町村への人的支援、技術的助言などを検討し、実施していきます。
岩沙会長 被災地は厳しい冬の真っ只中にあり、できるだけ早く復興庁を設置しなければなりません。復興庁が、補正予算の確実な実行とワンストップで柔軟かつ迅速な認定を行い、さらには被災地の復興事業について全力でサポートしていくことを期待しています。
■新成長戦略について
国際戦略総合特区の活用
岩沙会長 大都市は国家の成長の牽引役です。さらにTPPなどの経済連携によって国を開き、ヒト・モノ・カネを呼び込むことは、我が国全体の持続的な成長に不可欠です。
東京都の「アジアヘッドクォーター特区」のほか、「関西イノベーション国際総合戦略特区」や、北九州市、福岡市の「グリーンアジア国際戦略総合特区」などが国際戦略総合特区に指定され、都市の活性化による成長が期待されています。
大都市の競争力強化に資する都市再生特別措置法の改正や国際戦略総合特区法の成立によって、規制緩和の仕組みは整いつつありますが、税制・財政・金融上の支援措置は不十分です。特区内の進出企業の法人税を一定期間実質ゼロにするなど、思い切った優遇策が必要です。
交通・物流インフラ
前田大臣 我が国の国際競争力の強化や産業基盤の強化を図るためには、都市における真に必要な社会資本の整備やその維持・管理を戦略的に実施することが重要です。
具体的には、政府の新成長戦略でも盛り込まれている、(1)国際コンテナ・バルク戦略港湾の整備や民間の知恵と資金を活用した港湾経営の実現、(2)羽田空港の24時間国際拠点空港化、首都圏空港を含めた徹底的なオープンスカイの推進などを進め、外国人観光客やビジネスマンなどのヒトやモノの流れを作り出していきます。
また、これらの社会資本の整備に当たっては、PFIやPPPを積極的に活用するとともに、規制・制度の特例などにより先駆的取り組みを行う地域を支援する総合特区制度を活用することが有効と考えています。
特に、我が国の経済成長のエンジンとなる産業・機能の集積拠点の形成を図る国際戦略総合特区制度については、昨年末、環境・エネルギー、物流などの分野で、7カ所の地域が同特区として指定されました。
国土交通省としても、国際競争力の向上に向けて、今後とも、同制度の活用に対して支援していきたいと思います。
岩沙会長 海外からのヒト・モノ・カネの流れを円滑にするためにも、空港機能の強化や、ミッシングリンクの解消が不可欠です。
羽田空港国際線ターミナルのオープンから1年以上が経過しました。利便性の向上が評価される一方で、更なる総発着枠の拡大や、羽田空港と成田空港間のアクセスの改善などが求められています。
三大都市圏環状道路などの整備も、円滑な物流の実現や交通渋滞の緩和のために重要な課題となっています。
パリ、ロンドン、ニューヨークなどの代表的なグローバルシティはいずれも観光都市です。利便性の高い交通・物流インフラは、産業に高い経済効果をもたらすことはもちろん、インバウンド観光にも有効です。 (続く)