「いまこそ前を向いて進もう」企画の第2部は自治体首長と各地に根を張る不動産企業トップによる「地域政策」を巡る対談です。今回は埼玉県。上田清司知事と朝霞市に本拠を置き、不動産管理や土地区画整理などのコンサルティング業務を展開するリゾン・橋本岩樹会長。テーマは「地域密着のまちづくりと絆の形成」です。
■震災で変わった理念と哲学
上田知事 決定的に変わったことは2つ。1つは地球温暖化、CO2の削減という大きな環境問題への対応は、福島原子力発電所事故が電力不足という決定打になった。今後も厳しい環境はある程度は甘受せざるを得ない。脱原発や再生可能エネルギーの活用と言ってもそう簡単ではない。できれば民生用(全体の4割)は、意識的に電気の自活が可能になるような仕組みを、住宅とセットでつくるべきではないかと思います。実際、埼玉県の23年度補正予算で1000件くらい、実証実験を行っています。
4キロワットの太陽光発電と照明のLED化、そして蓄電池。この3点セットを整えれば、基本的に電気代は無料になるが、まだ設備投資が高い。普及値段がどのくらいかは分からないが、5年で回収できる金額であれば、20年はもつわけですから、たぶんシフト替えが進むと思います。
現在、補助金の額は国、県、市と組み合わせて大体初期投資額の半分近くになります。県では、今年度は4キロワット以上を6000件、4キロワット未満を4000件の合計1万件の補助を出しています。
2つ目は、防災です。日本は地震国で意識はしていたが、これほどの規模のものが来るとはの思いもある。より一層強いまちづくり、家づくりを進めなければならないということです。
県としては、まず主要幹線道路の確保。いざというときのために、国道17号などの幹線で倒壊しそうなビルのチェックを進めています。診断結果で耐震性に問題があれば、オーナーに建て替え、改修、破壊、撤去をお願いします。また、公共のマンホールなどが浮き上がって道路を遮断する可能性があるため、その予防措置も併せて進め、県の責任として公共インフラを災害に強いものにしていきます。ただ、家づくり分野では、まだ耐震診断の面倒を見ているくらいです。
橋本会長 被災者から聞こえてきた第一声は、家族の絆の大切さであり、地域の仲間たちとのコミュニティの大切さでした。我々住宅産業に携わる業者はこれまで、いかに売りやすい住まいをつくるかと高級なものを、また、安全を科学的なセキュリティに求めてきました。
しかし、聞こえてくる安全の意味はそうではなく、近所の人たちとのコミュニティであり、そこにある安心安全だった。忘れていた地域の連帯感であったわけです。家族の安全が一番であり、地域の連帯の大切さを私たちに、改めて教えてくれたのではないかと思います。これは最も大切な街づくりの基本理念だと思います。
つまり、大事な物事は今回の震災では変わっておらず、変わった点は、文明が生み出した科学的な安全を優先し、その大切さを忘れていたことに気付いた点です。
上田知事 防災の基本は24時間とか72時間ルールと言われるように、24時間であれば、隣近所の人たちが機動的に助け合う仕組みづくりが必要になります。市町村別に、町内会別にその仕組みがどれだけできあがっているか、また、どれだけ訓練をしているのかがポイントとなります。
自主防災組織の組織率は昨年4月現在、県全体平均で81.5%です。かつては50%台でしたが、市町村単位でこの組織率を上げて訓練をしていけば、24時間内の救助ができます。たとえ救助ができなくても、どこに誰がいそうだということを伝えることができ、防災ヘリ、救助隊を入れることができるわけです。
そうした「自立自存」の考え方は様々な県の政策に、一貫して反映させています。例えば、防犯の街づくりでは、防犯団体は県内に5450団体まで増え、断トツの全国1位です。これで犯罪を大幅に減らし、検挙率を大幅に上げました。また、元気な高齢者がそうでない高齢者を助ける仕組みづくりを32の市町村で進めています。商工会とか商店街が事務局になって、200人でも、300人でも元気な人に登録をしてもらい、買い物や草むしりなどのお助け仕事をやってもらう。報酬はその商店街でしか使えない商品券で支払うことで地域活性化に役立つわけです。一挙両得どころか、三者がそれぞれ得をする仕組みです。
■環境共生と負荷軽減は
上田知事 埼玉県では長期的な課題として「みどりと川の再生」を掲げています。まず失った緑を8年間で取り戻すこと。もう一つが「どぶ川を清流に戻す」取り組み。共に着実に成果を上げています。
住宅の環境負荷軽減・省エネ問題への対応は、オール日本で取り組むべき課題です。石油などは偏在しているため、それを巡って紛争も起きています。その意味で無難なエネルギー源は、どこでも利用できる太陽光発電です。
埼玉県では3つの市町を選んで先行モデル事業に取り組んでいきます。一定の地域をスマートハウス化し、エネルギーの管理を行い、街ぐるみ再生エネルギーで自活可能な状況をつくろうというものです。千葉県の「柏の葉」は新しい街ですが、埼玉県は既成のまちで取り組みます。今年度にスタート、3年くらいで実現しようとしています。
橋本会長 この問題は震災以前から住まいのテーマとなっていました。ソーラーハウス、外張断熱など、省エネ住宅はあらゆる角度から進化していくと思います。こうしたハードの進化だけでなく、今すぐ取り組むことができるソフト面が大事だと考えています。例えば、「これが便利」としてこれまで作り上げられた仕組みを細かく見直していくことも大事だと思います。
県で取り組んでいる「地産地消」。これは農家と消費者を直接結ぶ仕組みによって、通常の販売ルートを通じるより環境負荷が軽減されるものです。こうした仕組みは地域の中で計画的に作ることができます。小さな負荷軽減を仕組みとして積み重ねていくことが大事です。
当社の街づくりの現場の話ですが、「3.11」の翌日、防災訓練が中止せずに行われました。その中で、町内会長さんが震災直後、事前に把握していたお年寄りの家に真っ先に駆け付け、安否を確認していたことが報告されました。この街にはポケットパークが点在、朝と夕方、お年寄りたちが集まって、通学する子どもたちを見守っています。また、散歩をしながら1人住まいのお年寄りの安全を確認していて、何かあれば通報します。つまり、これは地域コミュニティが街全体の環境負担軽減につながることを示しています。地域の連帯が作る省エネの仕組みは無限にあり、できるところから進めていくことが大事だと思います。(続く)