10年4月に設立し、累計3000件以上の請負型ワンストップリノベーションの施工実績を持つリノベる(東京都渋谷区、山下智弘社長=写真)。住宅リノベーション、都市創造、オープンプラットフォームの3事業を軸に更なる成長を目指す。同社のこれまでの軌跡と注力事業、更に共同で代表理事を務める(一社)リビングテック協会(4月28日設立)などについて山下社長に聞いた。
――設立10年の振り返りと足下の状況について。
転機の一つが14年12月に資金調達を実施したこと。リノベーションという手法がマーケットにフィットすることが外部の資本家からも理解された証明であり、事業に確信を持つことができた。
創業以来、毎年約30%の成長を継続し、20年3月期の売上高は73億円、事業全体のリノベーション施工件数は659戸となった。事業の成長を感じる一方、拡大するリノベーション市場に対して当社の成長速度は十分ではない。この産業は「人の成長」が不可欠であり、労働集約型となるため難易度が高い。当社はテクノロジーを活用して教育に要する時間を短縮することで毎年成長を続けているが、この速度に満足していない。
――社内体制と事業バランスについて。
新卒採用は毎年15~20名を維持し、この4月には6期生が入社した。試行錯誤を繰り返し、新卒教育の型化もできてきた。「住まい」という軸で就職先を探す学生の志望が増えている。他方、中途採用は、新卒者に比べて引き出しが多い分、成果につながる育成を探りながら進めている状況だ。異業種からの採用、業界内での転職が活発化していることも鑑みて、戦略を練り直す必要がある。ただ、17年に三井物産、19年にNTT都市開発と資本業務提携したことなどを受け、この半年間で高度な設計技術を持つ大手設計事務所からの志望者が増加している点は特徴的だ。都市創造事業の中の一棟リノベーションにおいて活躍を期待している。
従来の都市創造事業はホテルへの活用が多かったが、コロナ禍ではホテルからレジデンスにリノベーションする仕事が増加した。それにより、個人向けの区分所有マンションリノベと事業者向けのマンション一棟・商業施設の部署の線引きがなくなり、横断的に取り組むことが増えた。
今後も住宅リノベーションと都市創造の2事業を中心に展開する中で、オープンプラットフォーム事業が付いてくると考える。オープンプラットフォームでは都市創造事業を進める中で当社が感じる「不」を解消するための取り組みをサービス化している。例えば、「ARリノベ」はAR(拡張現実)を活用して買取再販の可能性を広げる事業者向けサービスだ。
――コロナ禍での対応と今後の市場予測は。
当社はオンラインでの情報発信とショールームでのリアルの体験を連動させているが、コロナ禍で4月度の集客は激減した。他方、これまで進めてきたオンラインでの集客は外出自粛要請が全面解除となった現在も好調。事業計画の時間軸が大きく短縮できており、20年度後半は買いの需要も伸びてくると見る。
ユーザーの物件の選び方の変化も顕著だ。当社には都心の富裕層向けサービス「エスタス」があるが、リモートワークの浸透によってエリア選択の幅が広がった。分散化が進むことは職住近接に向いた事業従事者に対して物件提供をしやすくなることでもあり、いい流れと見る。マーケットとしては都心集中で過熱していたので、少しバランスが取れてくるのではないか。
――リビングテック協会が果たす役割とは。
「テクノロジーで暮らしを豊かにする」をテーマに、17年、18年に経営者向けカンファレンスを開き、手応えを得た。グローバル展開をする大手企業との調整やコロナ禍により社団法人化には構想から1年かかったが、住宅関連事業者やメーカー、流通・小売り企業が集まり始動した。
毎年、電子機器の世界的な見本市「CES」に行くたびに、日本企業の展示スペースが狭くなり、先進企業の「日本進出の優先度は低い」という声に危機感を覚える。新たな体験価値を生み出せるサービスを日本の風土に合わせることや、日本発のサービスを海外に届けることも協会の役割の一つだ。企業会員に加え、個人会員も募集することで柔軟にアイデアを吸収していく。今回のコロナ禍で新しいデバイスを導入したものの、現在は未活用となっているユーザーも少なくないのではないか。テクノロジーが生活の一部としてなじんでいくための推進が必要だ。秋には完全オンラインでのカンファレンス開催を計画している。