先般、過去に他殺、自死、事故死など人の死が発生した、いわゆる「事故物件」に関する指針が国土交通省でとりまとめられた。「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取り扱いに関するガイドライン(案)」だ。6月18日までパブリックコメントが行われ、現在、寄せられた意見について、学識経験者などが検討中だ。
心理的瑕疵は、買主・借主にとっては不動産取引において契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす。したがって、売主・貸主は把握している事実について、買主・借主に告知する必要がある。そして、実際の取引では、宅建業者が売主あるいは媒介を行うケースが多数であり、宅建業者の役割は極めて大きい。
だが、現実はどのような事案のときに告知すべきか、あるいは事案発生から何年間告知の義務があるのかが各業者・当事者の判断によって左右され、またその判断が困難なケースもある。今回の案はその判断の指針を示したものだ。
案では、対象不動産を居住用とした。更に居室だけでなくエレベーター、廊下、ベランダなども対象。告げる事案については、他殺、自死、事故死その他原因が明らかでない死亡とし、自然死や不慮の死については原則、告知義務はない。範囲については、賃貸借契約では事案発生からおおむね「3年間」。これは、過去の判例に則したものだ。売買契約では、判例や取引実務などが蓄積されていないため、期間を限定しないものとした。また、調査義務については告知書などの記載で可とした。
最終的な結論を示すのは早計だが、全体として、実務に当たる宅建業者などにとっても妥当なものではないか。案に基づく対応をしたからといって、民事上の責任を回避できるものではないとしながらも、「宅建業者のみならず、取引当事者の判断においても参考にされ、トラブルの未然防止につながることが期待される」として、すべての取引関係者の指針たりうるとの自信をうかがわせる。
ただ、売買における心理的瑕疵の時間的範囲が決まっていないことが気に掛かる。賃貸と違って、減価が多額となることで生ずる問題などを考慮したのだろうが、対応する売主や宅建業者の負担が大きくなる可能性がある。ここは、「10年」など一定の期間を提示し、事例が集積された段階で、修正する方法もあった。また、他殺、自死、事故死といっても、事情はそれぞれの死の中でも異なる。もう少し詳細な判断事例があればとも思う。
案は、将来、妥当しなくなる可能性も想定される。社会情勢の変化などに応じた適時の見直しが行われ、取引関係者すべてが参考にする指針であり続けることが求められる。その際、今回のように国が先導するのか、それとも実務に携わる業界団体がイニシアチブをとって率先して行うのか。その点も重要になってくる。