総合

彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇154 シリーズ・「素朴に問う」 自我を自分と思うから なぜ単身化が進むのか

 単身社会が日本の閉塞感を増している。本紙も〝お一人様〟社会が賃貸市場にもたらすリスクを取り上げていた(10月15日号1面)。

 なぜ今、日本で単身化が進んでいるのか。隣国の韓国、中国もそのようだが(本コラム11月12日号13面参照)、その要因を日本について言えば「自我を自分と思ってしまうから」というのが最もシンプルな答えとなる。

    ◇   ◇

 単身世帯の増加を招いている直接の要因は長寿化による独居老人の増加、晩婚化、離婚増加、生涯未婚者の増加などだ。ただ、そうした現象を生んでいる情緒的背景には自己中心(自分ファースト)の「自我」だけを自分と思い込む、特に若い世代の無明さがある。もっとも「七十にして矩をこえず」と釈迦が言うように、人間は誰しも70歳ぐらいになるまでは自分の何たるかは解らないものらしい。

五公五民

 若い世代を無明に追い込んでいる要因は多様だが、その一つが経済的苦悩である。国民負担率(所得に占める税+社会保険料の比率)の増大がもたらす生活苦と言ってもいい。12年までは30%台だった国民負担率は復興特別所得税(2.1%)が導入された13年に40%台に上ると徐々に上昇し、消費税が10%になった翌年の20年には前年の44.3%から47.9%へと跳ね上がっている。21年には48.1%と過去最高となり22年は47.5%だった。

 これは江戸時代の農民が一揆を起こした五公五民(収穫した5割を年貢米として徴収)の状況に近い。特に蓄えのない若い勤労者世帯には、ただ働くだけで将来が見えてこない過酷な状況となっている。結婚して子供を育てる資金も余裕もないから晩婚化が進んでいるという説には一理ある。

 しかし、そもそも結婚したくないという若者が増えていることも事実だし、独居老人や離婚増加の要因を経済的困窮だけに求めるのは無理がある。老人は「子供に世話を掛けたくない」とけっこう頑固だし、子供はその言葉に甘えて自分たち家族の生活を第一に考える。離婚の増加も「一生に一度しかない自分の人生を大切にしたい」という気持ちからだとすれば、結局若い世代に限らず自分(自我)ファーストの行動が中高年世代にも広まっているということではないか。

自我とは

 そこで改めて自我とは何かだが、それは自意識に支配された自分、幼い頃物心ついて自分という存在を意識しだしたときからずっと付いて回っている自分のことである。戦後アメリカから入ってきた個人主義の個人という言い方もできる。しかし、西洋的個人主義になじまない日本人ならはっきりと分かると思うが、自我だけが自分でないことは明白だ。もしそうなら、この世に芸術も詩も存在しないだろう。

 では、そうだとして日本社会の単身化を止めるにはどうすればいいだろうか。それは個人が自我以外の自分に目覚め、更には企業経営者、官僚、政治家らが〝組織第一主義〟(組織自我)から脱却することである。

 国が世界に対し「自国第一主義」で行動すれば国家としての繁栄はないように、企業や省庁などがそれぞれの利益を第一に考えれば社会は豊かにならない。同じように家庭も家族が個々の自我に囚われたら崩壊する。もともと細胞分裂を繰り返すだけの脆弱な核家族だからこそ、個々人が自我以外の自分に鋭敏にならなければ自分も家族も幸福になれない。

 日本は単身世帯がもうじき全世帯の4割に達するという異常事態が目前だが、それを誰も望んでいないのにそうした単身社会になることを前提に国の施策が進むおかしな国である。単身化という社会現象は国内を蝕む様々な次元の〝自己第一主義〟が社会の分断を進め、それによって生み出された徒花でしかないことを知るべきである。