オフィスのあり方が変わった。今でも部署ごとにデスクを対向させて社員同士が向かい合い、端に上長の机を配置する〝島型レイアウト〟の会社も少なくはないが、要は組織における人間関係のあり方が変わってきたのだと思う。
日本の会社ではこれまで平社員、係長、課長、部長などの上下関係が柱となっていたが、これからはそれぞれの職能を重視するヨコの関係が中心になっていくのだと思う。アメリカのメジャーリーグの野球を見るようになって最も新鮮だったのは監督と選手との関係が対等だったことである。監督も選手もそれぞれの仕事をしているのだからそこに上下関係はない。
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レンタルスペースのマッチングプラットフォーム「インスタベース」を運営する(株)Rebase(リベース、東京・表参道、佐藤海社長)のオフィスは完全に〝職能型〟である。上下関係を思わせるものは何もなくて、あるのは社員同士の〝交流体制重視〟の思想である。通常のデスク以外にも、誰でも気分に応じて自由に使える個室やソファ席、大きなガラス窓を通して表参道の街並みを見下ろす明るいカフェエリアもある。仕事が終わる夕方頃からは社員同士が一杯やりながら談笑できるバーカウンターもある。コーヒーもお酒も飲み放題で、もちろん無料だ。
外部とも交流
要は社員がなるべくストレスを感じずに、楽しく働ける環境づくりに専念している。佐藤社長は話す。「職場は楽しいことが一番大事。楽しく働くことでコミュニケーションが生まれ、新しいアイデアが飛び出したりもする。だから生産性も上がる」。コロナ禍ではフルリモートやハイブリッド勤務にもしていたが、今はフル出社体制にしている。その方が〝より良い結果〟が出ているからだろう。
毎月第三金曜日の午後6時からはバーカウンターが外部の人間との交流の場所になる。主に広報の人間が中心になって業種に関係なく外部の人間を招き、社員との懇親を図る。佐藤社長も顔を見せ、名刺交換をしながら気さくな情報交換を行っている。バーカウンターの中には簡単な調理器具もあって、料理好きの社員が交代でその腕前を披露したりもしている。ちょっとしたホームパーティーのようでもある。
入社間もないある社員に聞いた。
――こういう会社に入ってどうですか。
「もともと好きだったことが仕事にできているので最高です。お酒は飲めませんが、こういう雰囲気は大好きです」
よく、上下関係の中ではいわゆる〝指示待ち人間〟が生まれやすいと言われるが、個々の社員それぞれの能力に注目し、その力を最大限に生かすことを重視する職場環境なら積極的で創造型の人間が育ちそうだ。AI社会に求められる人材はそうした人間だろう。
好調持続
リベースは22年12月に東証グロース市場に上場したばかりの伸び盛りの企業。従業員はまだ30数人で平均年齢もおそらく30代と若そうだ。主力事業であるレンタルスペースのマッチングサービスは25年3月期第2四半期で売上高が前年同期比32%増と引き続き好調を持続している。その要因として佐藤社長は「当社のビジネスモデルにおける限界利益率の高さに加えて、従業員1人当たりの生産性が向上を続けていることだ」という。第2四半期累計の営業利益は前年同期比59%増、当期純利益は同60%増と共に大きく伸長している。
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ひとが何かを目的に集まろうと思えば必ず〝場所〟が必要になる。立地、広さ、収容人員、雰囲気、設備、時間、料金など無限に近い条件の中から目的にマッチする最高の場所を探す行為自体が楽しい作業となる。ユーザーが楽しむサービスを提供する職場が楽しい環境に満ちていることは、思えば当然なことなのかもしれない。