「いまこそ前を向いて進もう」企画、『前田武志・国土交通大臣と政策を語る』シリーズの第2回は三菱地所会長・木村惠司氏。テーマは「資産デフレの解消と社会基盤の整備」。経済の活性化のために、資産デフレからの脱却をどう進めればいいのか。今後、重要になる国際化などにもスポットを当てます。
■資産デフレの認識と対策 欧米並みに改修すれば
前田大臣 資産デフレの状況を土地、住宅、業務系ビルで分けて見ると、確かに土地はピークの半分以下の1208兆円になりました。ですが、業務系は街づくりをしっかりやってきたおかげで下がっていません。問題は、土地本位制で、土地が下がったらお手上げという日本の構造が変わっていないところにあります。上物も含めて価値が出てくるような街づくりをやっていかなければならないと思います。
リチャード・クー氏(野村総研)によると、現在の我が国の住宅資産価値は238兆円ですが、欧米並みに住宅寿命を70年くらいに伸ばし、節目節目に手を入れていくと、住宅はむしろ高くなる。米国並みに街づくりと改修をやっていれば、その価値は900兆円になっているという。
上物の価値が高ければ、住宅地の価格がそう下がるわけがないのです。人口減少など地価が弱含むすう勢はありますが、今後は、街の価値を全体として高めていくようにしていく必要があります。その方向性を示したのが、国土交通省でまとめた「『持続可能で活力ある国土・地域づくり』の推進について」です。
■総需要の減少が要因
木村会長 資産デフレ、特に土地価格は確かに半分以下になっていますが、街づくりなどで付加価値を高めたところは3分の2くらいにとどまっています。言われるとおり、住宅の価値をもう少し高める必要があるかもしれません。
資産デフレの大きな要因は、日本の総需要が減少したことととらえています。ただ、これは少子高齢化だけでなく、産業界の再編、産業立地などの問題もあります。そこをどう高めていくか。内需を高めていくには限界もありますので、アジア諸国、世界との交流や通商をもっとやっていく。その受け皿として住宅と土地需要を高めることで市場を活性化させていくのが、一番いい方策だと思います。
民間側もこれからは付加価値の高い住宅、街づくりをどう進めていくかが課題ですが、そこは成長戦略の中で大きな分野として位置づけることが大事です。都市再生のための国際戦略総合特区などを進める中で、街の価値をどう高めていくか。国交省や内閣府で出された施策は非常に時宜を得たものだと思います。
付加価値の高い街や住宅をつくっていって日本全体の社会資本の価値を高めていくこと。これがまた、資産デフレの対策にもなると思います。
前田大臣 地方都市は高齢化と人口減少が進み、働く世代が減って、地価が下がるのは当たり前です。その地方はコンパクトシティづくりでしのごうとしていますが、大都市近郊でも悩みは同じです。
先般、大阪府堺市の泉北ニュータウンの空洞化した現場を見てきました。街の再生のために、地元住民が立ち上がって活動していました。高齢者を受け入れるコミュニティハウスとか、コミュニティレストランをつくったりして。街づくりとは、官も民も一緒になって街の価値を高めていくことだと思います。
医療や雇用などのサービスを受けるには、都市をコンパクトシティにしていかないと難しい状況にあり、厚生労働省が地域包括ケアを打ち出しています。国交省の住宅・街づくり政策もそれと連携して取り組む必要があります。
木村会長 国交省の「持続可能で活力ある国土・地域づくり」政策の柱の中には、「国際競争力と国際プレゼンスの強化」があり、また、安全・安心な循環型社会の実現なども盛り込まれ、それ自体は大賛成です。ただ、みんなが同じことをやっても仕方がない。国土のあり方を国家ビジョンとして捉え、何をどこでつくるというように、選択と集中の考え方でやっていく必要があると思います。
例えば、震災からの復興計画にしても、何々県は何を、また、何県は何々の産業立地とするなどの方向性を決めることで、それぞれが付加価値の高い商品づくり、ものづくりをしていくことが大切です。また、農業、漁業にしても、ある程度国土の中で役割を決めていく必要があり、その中で、都市や住宅を位置づけて街づくりを進めることだと思います。
■国際化をどう進めるか 海外の人材を受け入れ
木村会長 国際化という場合、インアウト、アウトイン両面があります。外にいる企業や人材を巻き込んだ形での展開が必要だと思います。これからは、日本企業も日本人だけで仕事をするわけではなく、世界の優秀な人材を引っ張ってきて、商品開発もやれば、都市開発も行うようになるでしょう。
海外の人材が日本の大学に入って、その一部が日本企業に就職して商品開発に加わってくれないと、日本独自に勝手なものを作っても世界では売れません。例えば、サムスンが売れているのは、海外の人材を受け入れて一緒になって商品開発をしているからです。外国の企業や人材が持つ知見とかノウハウをどう活用するか、これが大きな課題です。世界中の人間と交流して仕事をすることで、活力が生まれます。
日本をもっと世界にアピールするためにも、例えば、震災被災地の復興計画などを国際的にオープンにし、提案を募るということがあっていいと思います。
■東北を世界に発信
前田大臣 それは面白いと思います。ただ、今の段階では、被災地で街づくりをやっていくシステムと、国際コンペのシステムは合わない。しかし、復興には5年、10年はかかります。そのうちに必ず海外からもいいモデルが提供されるかもしれない。そのような機運が出てきたら、大いに後押しをしたいですね。
木村会長 三陸海岸などは非常に景観がすばらしいので、景観デザイン的にも優れたものをつくる必要があります。海外の知恵を導入することも一案だと思います。
前田大臣 欧米のデザイナーが三陸海岸の美しさにほれ込んでくれたら、今度は、東北を一挙に世界に発信することができます。(続く)