「いまこそ前を向いて進もう」企画第2部。今回は民主党衆院議員で元国土交通大臣の馬淵澄夫氏と、東京都千代田区に本拠を置く中堅ディベロッパー・アーバネットコーポレーション社長の服部信治氏。テーマは、「都市と国土の安全、魅力をどう高めていくか」です。東日本大震災からの復興、切迫してきた首都直下地震などを踏まえた対策、都市の在り方などを探ります。
■大震災を踏まえた地震・津波対策
馬淵議員 津波でまちそのものが消失したことは衝撃的であり、それは住む場所、働く場所、地域のコミュニティをすべて失うことでした。それによって初めて、この国の底力は、実は地域の暮らしの中にあったことに改めて気付かされました。
特に諸外国から称賛された、混乱の中で失うことのなかった秩序と礼節。冷静さと自己犠牲という高い精神性が発揮されたこと。これは、我々が長い歴史を背景に培ってきた、共生の概念で進めてきた社会や、まちづくりの力強さを示すものであったのではと思います。
そのとき政府が真っ先に取り組まなければならなかったのは、「21世紀の社会、都市はどうあるべきか」、その地方の暮らしの在り方を一から考えて示すことでした。政権与党の人間として、最初の3カ月が本当に価値のあるものだったのか、との思いがあります。復興は、過疎と少子高齢化が進む中でも地域の絆を育み、住むことに喜びを感じる人たちがいることを踏まえ、ライフスタイルを含めた絵を描いて進めなければならないのです。
4月から総額19兆円の復興予算が執行されましたが、今後のまちづくり計画はどの地域地区、市町村ともまだ混乱したままで、コンセンサスを取るのが大変です。政治がもっとかかわっていかなければならないと思います。
服部社長 まず、被災地の復興対策を強力に進めてもらいたいと思います。それと同時に、次の問題に備えることも待ったなしです。東海、東南海、南海の大地震と大津波がそう遠くない時期に起こると言われています。予想される大地震で、高知県黒潮町には34.4メートルの大津波が来ると発表され、京阪神、中京地区も甚大な被害を受けると予想されています。
対策として、高い防潮壁を巡らす考え方もありますが、現実的にはそこに暮らす人がいて、国にもお金がない。そこは民間の活力、力を生かすしかないと思います。
それは今ある住宅や建物を建て直す機会を利用して、津波にも強いまちを築き上げていくことです。そのために建築基準法、都市計画法などを見直す必要があります。津波が来ても「最悪人間の命は助かる」態勢をつくり上げておくこと。建築規制としては、例えば、場所によっては、住宅を特に津波に強い構造にするとか、必ず屋上を設置する、高層化する、容積率を緩和する必要もあります。容積緩和で余裕の出た土地を利用して高台へ避難する広い通路をつくることもできます。
ただ、高台はどこも大半が市街化調整区域になっていて、実際には建物を建てることができません。大震災への備えとして一部を解除することも必要です。沿岸部での街づくりはトータルな視点で、規制の緩和と強化を同時に進めて行うべきだと思います。
馬淵議員 今回のような津波を防潮堤などで完全に防ぐのは難しい。そうではなく、減災の考え方、つまり一定程度の被害はやむを得ない、財産は申し訳ないが、命は守るという考え方を中心に据えて備えるべきです。
規制の方は今回の震災対応として、既に復興特区制度などで用途制限や容積率の緩和、市街化調整区域の見直しを検討しています。調整区域の見直しでは、農地の宅地並み課税を留保できないかなど、具体的事案が幾つも俎上に上り、対応を図っています。
大震災からの復興と、次の震災に備えるまちづくりをどう進めるか。必要なのは「地域に根ざした発想」です。首相補佐官退任後、被災各地を回って多くの人の話を聞くと、どこも「望郷の念捨て難し」で、地域に対する愛着は本当に強い。その地域の視点と発想は欠かせないと、思い知らされました。
■今後の原発・電力問題
服部社長 日本のエネルギー資源の問題を考えると、原発を全部止めるのは現実的ではなく、また、今後も原発に頼っていくのはどうかと思います。日本は地震大国であり、かつ、大きな津波が来る可能性があります。活断層に近い原発は強度を増すか、廃止するしかない。当面は優先順位を付けていくつかの原発に絞って動かしていく。中長期的には脱原発に持っていければ理想的で、それを目指すべきだと思います。
馬淵議員 私も、依存率を下げていくべきだと思います。エネルギー源を原発に頼るのは非常に危険であることは、多くの皆さんが感じています。原発の前提である核燃料サイクル、つまり使用済み燃料を再処理して再度利用し続けることはフィクションでした。ここは見直さざるを得ません。そこで問われてくるのがエネルギー政策であり、都市政策です。
昨年夏は節電で乗り切りましたが、節電は前向きではありません。私が提唱しているのはデマンドレスポンス、つまり需要管理です。これは様々なインセンティブを与えることで需要をコントロールし、供給構造に可能性、柔軟性を持たせることです。
現在のエネルギー問題は、まちの在り方、暮らし方を大きく変化させる、見方を変えると、新たな需要を掘り起こす可能性があります。その環境エネルギー産業をこの国の成長エンジンに据え、前向きに新しい産業を推進していかなければならないのです。
服部社長 電力・エネルギー問題については、住宅需要者の関心は非常に高く、特に、太陽光発電は、電力の買い取り制度があるので相当な勢いで増えています。補助金もあり、導入費用は恐らく10年ほどで回収できるのではないでしょうか。トータルで考えた場合、今後、補助金の額を増やしてでも住宅への導入促進を図るべきです。
同時に、技術革新の促進策も必要です。太陽光発電も屋根の上に載せるタイプだけでなく、窓に張るタイプなど、新しい技術が開発されてきています。住宅を建てる個人、消費者の力を活用して電力問題への対応と経済の活性化を図ることが大事だと思います。(続く)