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特別企画 不動産業ビジョン/賃貸住宅管理フォーラム 日本不動産鑑定士協会連合会 吉村真行会長 最適活用に不動産鑑定士の知見を

 不動産最適活用は「不動産業ビジョン2030」の基本コンセプトだ。最適活用に不動産鑑定士は欠かせない。地価公示でもすべての標準地で鑑定士が鑑定評価を行い、経済活動や国民生活の社会インフラとしての役割を担う。「不動産業ビジョン2030/賃貸住宅管理フォーラム実行委員会」の構成団体である日本不動産鑑定士協会連合会の吉村真行会長に地価公示への見解、鑑定士の役割や強み、展望、災害時の支援活動などについて聞いた。

 ――3月の地価公示への考察や見解を教えてほしい。

 「20年4月、5月は不動産取引が一時停滞し、ホテル、店舗を中心に収益性への懸念があったところから需要の減退が見られた。一方、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、テレワークを行うことで生活スタイルの変化も見られ、今後の不動産に与える影響の大きな要素となったことが明らかになった」

 「人口減少が続く中で、活用すべき・できる不動産と、収益経済ベースでは活用しにくいが、国土や資源として必要な部分という見方がある。『不動産業ビジョン2030』でも最適活用の方向性が示されたが、コロナ禍はもう一段深く考えてみようという問題を提起したのではないか。今回の地価公示や地価調査には非常にダイナミックな動きをしたエリアもあり、目が離せない」

3Aを軸に

 ――鑑定士の役割の変化やビジョンは。

 「不動産の価値判断ができる専門家、実務家としての役割や使命の果たし方が大事だ。以前から3A、アプレイザル(評価)、アナリシス(分析)、アドバイザー(助言・提案)を掲げている。既に11年に不動産鑑定業将来ビジョンとして提言している。鑑定評価書を発行する従来のビジネスモデルから、鑑定評価の知見や蓄積された資料やデータをしっかりと活用する多様化型のビジネスへの転換が必要だ。『不動産業ビジョン2030』でも示された不動産最適活用、価値創造のテーマにも、3Aのビジネスモデルは大きく貢献できる」

 「昨年、30年ぶりに改正された土地基本法に基づく土地基本方針の中に『不動産の鑑定評価の専門家の存在自体が、不動産市場を支えるインフラ』と記されており、大変意義深い。鑑定士は重要なインフラと強く認識した。不動産の悩み、問題点を解決していく知恵は、鑑定評価をする中で相当蓄積されている」

 ――社会インフラとして災害時支援も行っている。

 「16年の熊本地震、南阿蘇村での支援活動が始まりだ。災害対策基本法が変わり、市町村長が罹災(りさい)証明書を発行しなければいけなくなった。直接的には住家被害調査になるが、熊本地震では旅館や神社にも対応した。罹災証明書発行に至るまでのプロセスをしっかりと説明し、再調査を含めて総合的に支援していく。鑑定士の立ち位置は『有事のときにこそ役に立つ専門家としての社会的使命を果たしていく』ということだ。罹災証明書の発行は被災者の生活再建、事業再建の第一歩なので、迅速に対応する必要がある」

 ――支援体制の拡充は。

 「支援活動では、初動は東京のチームがディレクションを行い、地元の鑑定士を中心に被害調査を行っていた。昨年度は東京都不動産鑑定士協会が被害調査に関するテキストを作り、全国の鑑定士協会に対して研修を実施した。今年度は連合会としてテキストを作成する。都道府県の鑑定士協会、地域の連合会、当連合会が連携し、災害の状況に応じて支援する体制がますます取りやすくなる」

 ――今後の不動産鑑定業の展望を教えてほしい。

 「3Aに象徴されるが、鑑定士の強みはまずアプレイザルだ。地価公示などの公的評価をしっかりと担う。不動産証券化では市場を支える存在として鑑定評価を行うこと、それは日々研鑽(けんさん)していく」

 「鑑定評価書の作成に至るプロセスの中で、最有効使用の判定がある。これは対象不動産自体に加え、対象不動産がある地域も分析する。不動産の最適活用と共通する部分だが、経済的、社会的な価値、持続性などの観点から最も有効な活用を組み立てていく。鑑定士にはより説得力のある不動産コンサルティングがますます求められていく」