首都圏新築マンションの平均価格(6360万円)が、バブル期(6214万円)を超え過去最高になったことが話題を呼んだ。国民全世帯の平均世帯年収は552万円だが、東京都に限れば808万円となる。世帯年収が1000万円を超えるパワーカップルなら1億円以上の物件購入も可能。だからマンション市況は好調だという。問題は議論がここで終わっていることだ。平均年収よりも少なく層が厚い中央値や最頻値世帯を前提に議論をすべきである。
昨今の世界情勢では新築住宅の価格が下がる要因は見当たらない。一般国民の賃金が上がる見込みもない。となれば、マイホーム取得の実現には中古市場の役割が一段と重くなる。しかし、中古住宅はどうしても瑕疵などその品質が心配だ。そのために、「安心R住宅」制度が18年度からスタートしているが普及率は低い。業者のためではなく、消費者のための中古市場活性化には国のお墨付きに頼らない、もっと根本的な仲介イノベーションが求められている。
そもそも仲介という業務には大きな疑問がある。それは両手、片手にかかわらず営業担当者にとっては成約はなるべく早期に、手数料が連動する成約価格は高いほうがいいという現実である。これは売主の利益とは一致するが、「たとえ時間はかかっても、なるべく安くいい住まいを購入したい」と願う買い手の利益とは一致しない。にもかかわらず買い手は仲介というシステムを利用するしかない。しかも売主からの手数料は成約価格の1~2%で、買主からは3%を受領している会社もあるという。これは大きな矛盾だ。
そこで、仲介手数料はすべて売主負担とし、買い手はインスペクションやセカンドオピニオン費用を負担する制度へ移行すべきではないか。買い手も最も気になる建物の安全性や契約内容全般をチェックしてもらうための費用なら納得する。課題は売主が買い手側営業担当者への手数料も負担する合理性をどう担保するかだ。
米国ではエージェント資格よりも厳格な免許を持つブローカーが手数料分配の仕方を決めるときに、バイヤーズエージェントが買い手に対する背信行為をしていないかというチェックもするのでコンプライアンスを担保している。日本でもなんらかの制度構築が必要になるだろう。
また、セカンドオピニオンなど純粋にクライアントの利益のために働く仕事が普及すれば仲介業界に真の〝士業〟意識が醸成され、業界の社会的地位向上をも促す。セカンドオピニオンを提供するためには、宅建士の平均的能力を上回る技量(不動産の将来的リスクに関するより幅広い知見など)を持っていなければならないが、契約を成立させることで依頼者の利益を実現する宅建士らとのプロ同士の競争意識が刺激され、互いの能力研鑽に磨きがかかることも期待できる。