住宅ローン減税の面積要件について、緩和の動きが進んでいる。この要件の有力な根拠となるのが26年春に見直し予定の「住生活基本計画(全国計画)」で、国土交通省の有識者会議が11月に提示した素案では、想定する適正な住宅面積水準を「40m2程度」と明記した。
現状、税制改正の結論がどうなるかはまだ不透明ながら、ローン減税要件の緩和を強く訴えてきた住宅・不動産業界にとって大いに歓迎できる動きだろう。住宅価格が急騰し、一般実需層の購買力とかい離が進む中、住宅取得の選択肢を広げる柔軟な対応と言える。
その意義は重々承知の上で、ローン減税の面積要件緩和には、あえて官民共に慎重な姿勢を求めたい。従来のように一定の限定条件を設けず、原則の面積要件を引き下げる場合には、いくつかの懸念点があるからだ。
第一には、将来へ引き継ぐストックの品質を偏らせてしまう恐れがある。同会議の議論を追い続けてきた限り、面積水準の引き下げは市場の実態と需要を主な根拠としている。確かに需要に応じた供給は不可欠だが、政策的にそれを後押しした場合には、小規模な住宅ストックの割合が過度に高まってしまう危険性がある。
今後中長期的に社会・経済環境が再度変化した場合にも、そのストックは十分に有効活用されるのか、より慎重な分析が必要ではないか。同会議では、有識者から「狭小単身住宅ばかりの街区が形成されかねない」との指摘もあった。都市部においても、供給過剰(需要不足)のストックは空き家化・管理不全化のリスクを内包する。
併せて、比較的安価だという理由で、従来よりも小規模な住宅の供給を国が後押しして良いのかという議論もある。ローン減税は住宅取得促進だけでなく、良質なストック形成を推進する役割も掲げている。長期優良住宅やZEH水準などの性能に応じて、借り入れ限度額の上限を優遇していることもその一環だ。現在の市場では40~50m2未満への需要が高いとしても、居住の質や環境の面では、住宅政策上の整合性に疑問が残る。
更に、現在の需要自体が、世帯構成の変化を考慮しても、近年の住宅高騰対策としての〝消極的ニーズ〟ではないのか。本音ではより広い住宅を求めていながら、価格で諦めた妥協の産物ではないか。もちろん、そうした切実な実需層の選択肢を広げることは重要だ。しかし選択肢というなら、新築・好立地のコンパクト物件に限る必要もあるまい。既存住宅活用への更なる支援や、アフォーダブル住宅の拡大、都市近郊住宅地の再興等でカバーできる部分も多いはずで、実際に多くのディベロッパーやハウスメーカーが取り組んでいる。大切なのは、住まい手の本来の希望に最大限応えられる仕組みの構築と慎重な運用であり、同時に住宅・不動産業界にも、将来を見据えた節度ある事業を期待したい。




