急速に普及した在宅ワークは、通勤時間の有効活用や業務の効率化等を可能とする一方、仕事上の不安やストレスの増加など新たな課題を生み出している。地域の遊休資産を活用したリノベーション手法は、これらの課題を解決する「個」の受け皿となりうる。これからの地域活性化を読み解くヒントとなる。
住宅リノベーション、都市創造、オープンプラットフォームの3事業を主軸とするリノベる(山下智弘社長)は、累計3000件以上のワンストップリノベーションの実績を生かし、これからの住まい方や働き方の提案に取り組む。特に19年11月のNTT都市開発との提携を機に、一棟リノベーション・コンバージョン、商業施設・オフィス設計など、全国各地の遊休不動産を活用した都市創造事業の取り組みに注目が集まる。
同社は7月7日、大阪市西区のオフィス街に複合型シェアスペース「リノベる大阪」をオープンした。71年建築の地上5階建て・鉄骨造。小規模オフィスビル一棟をリノベーションしたもので、同社が手掛けた一棟リノベでは42棟目。〝地域にひらく〟をコンセプトに、プロダクト開発を見据えたカリモク家具のライブオフィスやスマートホームが体験できるショールーム、同社のパートナーが利用して共同事業を取り組むシェアスペースで構成。3階には同社が「マンションリノベにおける関西エリアの拠点、都市創造事業の関西以西の拠点」と位置付ける大阪オフィスを置いたほか、街との接点となる1階にはコーヒースタンドを設けるなど、地域活性型の事業創出を目指していく。
また、同社は山口県長門市にある築45年の鉄工所をコンバージョンし、8月下旬にはスポーツ複合施設「SWEET AS」を竣工する予定だ。一棟リノベでは、エリアや地域の広い視点から長所や課題を読み解くことに注力する。戦後からラグビーに親しんできた同市の文化と地域コミュニティの醸成を目指し、カフェやレストランのほか、多目的スポーツコート、イベントスペース等を備える。19年に日本一に輝いた地元女子ラグビーチーム「ながとブルーエンジェルス」が運営を担うなど、保有資産の活用と「スポーツを軸にした楽しめる場所へ」という思いを具現化していく地域拠点だ。
賑わいを生む取り組み
リノベーション事業を多展開するリビタ(川島純一社長)もまた様々な分野で地域との連携を重視する。エリアや建物の条件を絞らず、地域の遊休資産を生かしながら、そこに賑わいを創出する取り組みを多数展開する。近年では東京内神田のシェア型複合施設「the C」を地方自治体の移住相談窓口や東京事務所として活用。みなとみらいの大人のシェアスペース「BUKATSUDO」で展開する講座・部活等のコンテンツを通した地方との関係人口創出などの事業も増加している。
同社が茨城県と共同で進める「if design project~茨城未来デザインプロジェクト」は18、19年度に続き、9月から第3期を迎える。県内外から参加者を募り、同県の地元企業の課題解決を考える約3カ月のプログラム。同社が事業を通して感度の高い個人やフリーランスと接点を持つことに加え、シェアスペースの日野市・多摩平の森産業連携センター「plan T」で展開していた個人と企業をつなげる取り組みに着目した茨城県から移住促進事業の打診があった。
同社はプロジェクト全体のトータルプロデュース・ディレクションを担当。過去2回の参加者の4割が茨城県出身者で地元貢献の機会を探していた人。残りは東京圏の企業で培ってきたスキルがどう地方で生きるかを試したい人に大別されるという。年代別では社会人経験と次へのチャレンジ意欲を持つ30代が多く、プロジェクトを機に企業の製品デザインやゲストハウスの立ち上げに関与した例もある。地域おこし協力隊として現地に移住した参加者はパートナー企業の水戸ホーリーホックと連携し、廃校を活用したクラブハウスでパブリックビューイングを企画。100名以上の住人にサッカーを楽しむ機会を提供するなど、継続的な関わりを生み出している。同社にとっても「1つの場に熱量の高い個人を集めるスキルは様々なシェアスペースの企画・運営で生かせる」と前向きな受け止めだ。
「働く場」の広がり
「場づくり」を進める両社はコロナ禍という文脈をどう読み解くか。リビタは、都市部への一極集中が続いた中で強制的に自分の暮らしやその周辺・近所の価値の再整理と再発見を強いられた出来事と分析。地方でのリノベーション案件やプロジェクト相談が増加している状況も踏まえ、「コロナによって地方や移住というキーワードがより注目されている。テレワークの普及で部分的なリモートワークができる企業は一定程度増加した。東京から通勤1.5時間から2時間圏の近郊外を住まいとして捉える可能性は増えてきた」と見る。
リノベるも、既にテレワークの充実を求めて住まいへの具体的な提案を始めているとし、「オフィスを分散する企業からの相談が出てきており、遊休不動産の利活用の動きは加速する。テクノロジーを活用し、創造力に注力したより柔軟な提案の機会が増える」と予測する。
身近な生活圏に視線を向けても、自宅周辺に行きたい店や知り合いが不在など、地域の中で孤立感を再認識した人も少なくないはずだ。ファミリー層を狙った大手チェーン店舗に限らず、各年代で増加傾向にある単身者が心地よく過ごせる場づくりという視点も重要となる。この課題に着眼したリビタは近年、郊外のスーパーやショッピングセンター内での地域交流スペースの企画運営に積極的に取り組む。日用品を購入する生活動線の中にさりげなく「食べる」「遊ぶ」「過ごす」を設計。シェア型賃貸住宅で得たコミュニケーションマネジメントスキルで郊外の単身者層も含めた「地域で顔の見える関係性」を構築する。そこにコロナで在宅の人が増えた今、郊外でも「働く」という要素を入れた企画を現在複数進行しているという。「街に人の居場所をつくる」をテーマに地域への関わりを推進していく。