今年8月に開かれた理事会で20.21年度の執行部体制が決まった全国賃貸不動産管理業協会(全宅管理)。3期目を迎えた佐々木正勝会長がこのほど、岡田日出則専務理事と共に、賃貸管理業の課題などについて語った。
――就任の抱負を。
佐々木会長 会員数が6300社(9月末時点で6282社)に到達する勢いだ。全国で24支部体制、管理戸数は合計400万戸の団体となった。これはまさに今年6月に公布された賃貸住宅管理業法への期待の表れであり、事業者がストックビジネスの重要性に気づいた結果だ。今後も当会設立当初からの「日本の賃貸管理業のスタンダードをつくる」という思いは変わらず、現場業務に役立つツールを開発していく。
岡田専務 前年度は管理業の標準化・平準化を目指して、会員研修やツール提供を推進した。月に数カ所、会員の声を聞きながら実務にそう形でセミナーやタウンミーティングを開催し、住宅確保要配慮者への対応や考え方を議論してきた。イタンジと進めるクラウドによる内見予約や申込受付はコロナ禍で更に進んでいる。中には数戸、数十戸を管理する会員も多く、彼らがアナログ、デジタルの狭間で振り落とされないよう、「『住まう』に、寄りそう。」という全宅管理のスローガンの下、サポートしていく。
――賃貸住宅管理業法の施行に向けた準備について。
佐々木会長 同法の施行に向けた検討会メンバーとして、まずは12月18日までに施行される「サブリース関連」でのガイドライン策定に向けて検討中だ。その後、「賃貸住宅管理業の登録等」の検討が始まる。現場で齟齬(そご)が起きないよう、また「日本の資産価値を下げない」「賃借人の生命財産をどう守るか」「そのために事業者はどんな役割を担うのか」という三位一体の視点で進められている。全宅管理ではガイドラインの完成後、顧問弁護士による解説動画をウェブ配信したり、書式解説を行ったりと周知に努めていく。
また今年4月、日本賃貸住宅管理協会と共に、賃貸管理業従事者の教育・研修等、人材育成に関する共同推進を発表した。経営基盤の違いはあっても管理業務の取り組みは同じであり、トラブル発生の抑制という共通認識のもと、垣根を越えて進めたい。
――コロナ禍における入居者ニーズの変化と対応は。
佐々木会長 ステイホームおよび在宅時間の増加に伴う賃貸住宅トラブルが増加し、管理業務の間口は広がった。住宅設備の利用頻度が増えたことで補修依頼も増加している。賃料減額についても顕著だ。仙台市にある当社では約3000戸を管理しているが、理美容室や飲食店、保育園等を中心に50%の減額要求が多かった。最終的には30~50%の減額で2~4カ月の期間を定めるケースで落ち着いたが、その間に国のほうで持続化給付金などの対策が決まった。約5万人の学生を有する仙台では大学のリモート授業に伴う帰省を理由とした賃料減額要求や解約の声が多い。全宅管理としては、各宅建協会が個別に首長に要望すると共に、全宅連を通して国に強く助成を要望し、実現に至った経緯がある。今後も継続的な要望が必要と考える。
――中小事業者の役割は。
岡田専務 コロナ禍で非対面ニーズが高まる半面、居住者も働く人も相談する相手がいなくなるため、個に固まっている傾向がある。トラブルが発生した際に当事者が直接やりとりできる時代ではない。間に入るのが中小の管理業者であり、地域からますます求められる存在になる。
佐々木会長 媒介業務は物件の引き渡しによって業務を終えるが、管理業者は様々なシーンで出番が増している。管理のプロとしてオーナー、入居者双方の利益を守ることができるのが、地域で循環型産業に携わる中小企業の役割だ。全宅管理は、会員企業が地域から支持、信頼されるための後方支援部隊であり、地域への貢献を目指す。
顧客からの要求をクレームではなく、「サービスリクエスト」と呼び、これに対応するシステムづくりをAIを活用して進める。現場業務の省力化とストレス軽減に役立つはずだ。「正しい管理をきめ細やかに」という姿勢で、〝地域のホームドクター〟を目指す。小さなフィーが大きなビジネスに変わるという魅力を会員企業と体現していく。