最新テクノロジーのブロックチェーン(分散型台帳技術)でデジタル化させたトークン(証票・印し・象徴などの意)の「NFT」(ノンファンジブル・トークン)や、「ST」(セキュリティ・トークン)の活用が急速に普及し始めた。これらの〝デジタル・トークン〟を付加すると、不動産などの実物の資産や画像・映像などのIP(知的財産)の流動性を高めることができ、それらの〝価値〟の移転が迅速に、簡便にもなるとして、取引市場の活性化に期待が高まっている。(坂元浩二)
緒に就いた「NFT」の可能性
通常は容易にコピーされてしまう創作者のデジタルデータだが、固有のIDを付ける「NFT化」を行うと、そのNFTが〝デジタル鑑定書〟のようになる。オリジナルの作品を〝1点モノ〟として証明ができる。
ブロックチェーン上でNFTはそれらデジタル作品や現物を購入した現在の保有者を明らかにする。保有者の変更や売買価格も記録し、取引履歴などの改ざんや偽造を防げる。
また、分割した資産のそれぞれの〝価値〟を表章して個性を持たせ、売買可能なデジタル単位に変換できる。現状では、アートや音楽、スポーツなどの領域を中心に、画像や映像にひもづけて先行活用されている。希少なものは高値で取引されている。
GMOインターネットグループは21年6月、新会社GMOアダム(東京都渋谷区)を共同で設立し、12月にNFT取引所の「Adam byGMO」を正式に開設した。
「シンプルな操作性と利便性を追究した。一般的なネットショッピングのような感覚で、誰もが気軽に購入できるようにしている」(GMOアダム事業部の林智美氏)。
坂本龍一氏や小室哲哉氏ら著名人も既に出品。暗号資産や日本円でも、NFT付き作品を購入できる(イメージ図(上))。購入者の特典でイベント参加権などが付与される場合もあり、その〝特別感〟が人気を集めている。「ロイヤリティ」の機能で、二次流通で転売されるごとに、創作者に対価の一部が還元される。同社認定代理店が出品されるコンテンツの真偽を審査し、取引のトラブルを防げる。
こうしたNFT化の仕組みの導入は、まだ、不動産領域では緒に就いたばかり。ただ同社はまさしく〝1点モノ〟である不動産領域も視野に入れており、「安心な取引を保全し、様々な取引価値がそろっているという世界観を提供したい。出品自体が、創作者の〝ステイタス〟となるようなサービスに成長させていく」(GMOアダムの林氏)。
施設の集客目的で
また、他社の取り組みも進む。Urth(東京都新宿区)は、デジタル3D建築データのNFT化で建築家を支援した。HARTi(東京都千代田区)は商業施設を対象に、バケット(東京都新宿区)と埼玉県公園緑地協会は動物園などで、あるやうむ(札幌市北区)と北海道きたひろ観光協会は観光振興のために、Bridges(東京都江東区)とCoinPost(東京都千代田区)は屋外広告枠の販売に向けてNFTを活用し、または、検討を始めている。
GAtechnologies(東京都港区)は1月に不動産NFT専門部署を設置し、国際的な取引やメタバース(仮想空間)内の不動産流通で検討を始めた。仮想空間内ながらも、コインチェック(東京都渋谷区)やアソビシステム(東京都渋谷区)は、都市開発に乗り出している。
不動産投資の出資持分で広がる「ST」
STは〝デジタル証券〟などとも言われ、不動産領域では不動産投資クラウドファンディングで活用され始めた。小口商品化する際に、個々の所有権にSTを発行(ST化)すれば、株式のように、容易に転売や譲渡ができる。投資家の裾野を広げられる。
二次流通を活性化
Relic(東京都渋谷区)は、不動産特定共同事業法(不特法)に基づく事業者向けの「不動産投資型クラウドファンディングシステムPowered by ENjiNE」でST化機能の構築に向けて、ブロックチェーン基盤提供のBOOSTRY(東京都千代田区)との連携を21年12月に始めた(イメージ図(下))。
「ST化で出資持分の流動性が高まり、二次流通が活性化される。投資家などの新たな顧客との〝接点づくり〟になる。既存事業と相乗効果を高められる効果がある」(Relicグロースマネジメント事業本部の久野優氏)。
米国本社の日本法人セキュリタイズジャパン(東京都中央区)では、LIFULL(東京都千代田区)とも協力し、不特法事業者向けに「ST化」機能を実装したクラウドファンディングシステムを提供。これを活用して、エンジョイワークス(神奈川県鎌倉市)は、「葉山の古民家湯宿づくりファンド」プロジェクトで一般の投資家を募った。
「従来の不特法事業のクラウドファンディングは、短期間の不動産運用が多かった。ST化で出資持分の流動性を高めれば、投資家を入れ替えながら長期的な運用が可能になる」(セキュリタイズジャパン・カントリーヘッド、ジャパンの小林英至氏)。
現在、NFTは法的に明確な定義がない。金融庁は「個別具体的な判断」とし、判断次第で金融商品取引法などで規制される可能性があるが、これはいわば、活用に〝伸びしろ〟があるということ。不動産の事例がほぼなく、どの事業者が一番に成功事例を示せるかの競争にもなりそう。不特法事業は(特例事業を除き)、金融商品取引法の規制外で比較的ハードルが低く、新規の参入者が急増する背景を後押しに、ST化機能が活用され始めた。付加機能で本人確認をデジタル化する「eKYC」も始まった(8面に関連インタビュー記事)。
その先にあるDX
NFTもSTも、グローバルな取引が可能になる。その発展や健全性を保つには、国際間の法制度や税制、消費者保護、市場連携などの一層の協調行動も必要となる。いずれは不動産領域でも、STに加え、NFTも一般化する。そうした最新のテクノロジーを当たり前に使いこなす先にこそ、ビジネスの変革や〝新たな顧客体験価値〟の提供が叶う〝DXの世界〟がある。