「〝住む〟と〝泊まる〟を区別する意味は必ずしもないかも……」と語るのはレジデンシャルホテル(レジホ)の一括運営代行を手掛けるリアテクノロジーズ社長の橋野宜恭(はしのよしたか)氏。賃貸マンションを用途転換し、40m2程度の部屋に5人までが一泊2万5000円(一人5000円)で利用できる民泊を提供している。
大阪を中心に東京、京都の3都市で現在18棟550室を運営中だ。大阪を中心としている理由は市内全域が「民泊特区」となっていて365日(通常は180日)営業可能だからである。コロナが収束し、訪日外国人が増え始めたこともあって業績は好調。上場も視野に入り始めたという。
同社ではオーストラリア人を中心に外交人の利用が多く平均宿泊数は4~5泊。次いで台湾や韓国が続く。日本人の利用は全体の2割未満で宿泊数も2~3泊と少なめだ。従来のホテルはシングル、ダブルが多く、数人が同じ部屋に泊まれるところは少ない。つまりレジホ(アパートメントホテルとも呼ばれる)はホテル業界の死角をついた事業といえる。
橋野氏はこう指摘する。「これからも人口減少は続く。大阪も京都も全国平均とほぼ同じペースで減少していく。賃貸市場は空き家が増える。〝住む〟と〝泊まる〟のシームレス化こそがレジ不動産を外貨獲得産業に変えることができる」。イノベーションを起こすべきこれからの事業経営者にふさわしい自信に満ちた言葉だ。
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確かに〝住む〟と〝泊まる〟に垣根はない。毎日家に泊まるために帰る人も少なくないだろうし、自宅に友人や遊びに来た親族らを泊めることは普通だ。家族旅行は手ごろな価格で連泊できれば一層楽しさが増す。民泊がそうした日本人の暮らしに潤いをもたらす施設になればいいと思う。
24年の訪日外国人の数は3687万人で過去最高となった。25年は4000万人を超えると推計されている。民泊を利用する日本人も全体では増加傾向にあって、近年は5割に近づきつつある模様だ。ただ、訪日外国人の増加をバネにレジホが日本人の余暇をも充実させる新潮流となるためには不動産業界がホテルアセット並みのオペレーション能力を身に着けた人材を育てる必要がある。
時代を担う人材
単に売買による利ザヤや仲介料で稼ぐだけでなく、それぞれのアセットに応じたオペレーション能力に長けた人材をどう育てていくかは、人口減少が進むこれからの不動産業界の大きな課題となる。民泊のオペレーション能力について橋野氏はこう説明する。
「高収益を生み出すには一泊の料金を細かく変動させることで稼働率を上げることができる。さらに言えば。稼働率の安定性と現場(ルーム)品質の高さが鍵を握る」
稼働率が安定すれば常に一定数のスタッフを確保すればよく、それがトラブルの減少につながり、労働生産性を上げることにもなるからだ。
不動産業ビジョン
国土交通省の「不動産業ビジョン2030」は今後の不動産業の在り方を示したものだが、ライフルホームズはその全体像を解説していて、最後の項「今後の持続的な発展にむけて」にはこう記す。
「住む、働く、余暇を過ごすための〝場〟や〝空間〟をつくるために決して欠かせないのが不動産業。他業種や国・行政と連携しながら変化するニーズに対応していかなければならない」
とかく白書やビジョンは「役所の作文」と見られがちだが、この「不動産業ビジョン2030」は19年4月に発表されたものとは思えないほど、今日の不動産業界の課題を言い当てている。従来から「2030問題」として指摘されて続けてきた少子高齢化による人口構成問題は今まさに、不動産業界に重くのしかかろうとしている。