伊東駅を降りたち駅前ロータリー右方向の「湯の花通り」を歩くと、その先の「キネマ通り」という閑散としたアーケード街が終わる五叉路交差点の手前に、居酒屋「元気」がある。以前、筆者は仕事の関係で東松原町に通ったが、よくこの酒場を訪れた。明るい性格の若い大将は芸術的センスもあるのか、新鮮な地魚を美しく盛りつけてくれた。イサキ・平目・モダイ・ホウボウ・スズキなど「今日のお任せ地魚5種10点盛り」、赤尾鯵の塩焼きなど豊富だが、どれも伊東漁港に水揚げされたばかりで美味しく、東京と比較すれば破格の値段だ。刺身には天城産の本山葵がついており、客が自分で摩り下ろす。これがまた楽しい。酒はいつも伊東市池地区の地酒「池のさと」をいただいていたが、地魚と相性が良いのだ。
ある時に大将と地魚の話をしていたら、「実は漁港では市場に出せない小さな魚がたくさん穫れていて、これがまた安いんですよ」という。「じゃ安く引き取って500円ぐらいで出したらいいんじゃない」と半ば冗談で言ったら、次に訪れた時、若い大将は大きな皿に乗せた様々な魚を持ってきて、「あのアイディアいただきました」という。「お楽しみ・地魚の塩焼き」としてメニューに加え観光客などに人気。その中から選んで焼いてもらったギンガメアジは絶品だった。あの立派なギンガメアジの塩焼きが500円(今は少し値上げ)とは安すぎる気もするが、原価も安いのだろう。天婦羅、揚げ物、炒め物、串ものなどメニューは豊富で、何を頼んでも美味しくて安い。閑散としたアーケード街の先には、こんな魅力的な酒場がいくつかある。(似内志朗)