政策

社説 問われる仲介業の真価 自他高める「経営視点」示せ

 高額帯取引がけん引した2024年度の売買仲介市場。好調な市況は不動産流通業者の追い風となったが、中長期の成長課題すなわちフィービジネスの源泉は人。顧客獲得の再現性を高めるためには、働き手の獲得・成長、時代に即した働き方の追求が鍵を握る。

 そんな中、全日本不動産協会が一般向けに実施した担い手確保調査は、業界に警鐘を鳴らす内容だった。15~39歳の男女2000人のうち、8割が「不動産仲介業で働くことに興味がない」と回答したのだ。仲介業の魅力に「成果主義」を挙げる一方、同団体の会員事業者が働きがいとした「まちづくりやライフステージへの関わり」への関心は低く、「家を貸す・売る」という一つの取引をイメージしている可能性が浮かび上がった。この意識差は将来の担い手獲得に向けて懸念材料となる。

 では仲介業の魅力発信は、企業の規模や努力の差という問題か。各社各様の方針は前提としつつも、顧客に対峙する仲介業の本質とは何か、その発展の可能性を業界の共通項として発信していくことが重要だ。例えば、DX推進。人手不足解消に向けた業務効率化や組織体制の構築は、休日取得や出産後の現場復帰など、多様な働き方を実現する一助となる。情報価値が求められる不動産流通業においてテクノロジー、AI技術の進展は、即時対応を実現し、人為的ミスを減らす正確性という側面でも期待できる。「専門的な書式作成を簡易化・時間短縮する」「昔ながらの不動産業の慣習に基づく仕事を標準化する」といった先に、若手や異業種参入の可能性が広がる。半面、顧客の趣向データを解析し、許容量を超えた不動産取引に導く技術革新には注視が必要だ。高度な押し売り手法を生み出す道に走れば、将来の顧客、担い手候補に嫌悪される要因となる。技術を用いた目指すべき方向性、バランス感の共有が重要だ。

 今後、中古取引の重要性が増す中で、市場のメインプレーヤーは仲介業に転換していく。相続、空き家活用、コンサルといった選択肢も加わり、顧客のライフステージで何度も役立つ関係性を強化できると共に、まちづくり等のダイナミックな仕事内容につながる。それが人材獲得に連鎖する。流通大手の人事担当によれば、「稼ぐ」一辺倒でなく、社会課題解決や地域貢献を志望理由とする学生も増えているという。利益追求と社会貢献は相反する価値観ではなく、どちらの成果も高め合う成長エンジンだ。求められるのは、こうした価値観を受容、実現していく経営力となる。

 仲介業者は、新たな顧客感動を提供できる創造的な職業だ。選ばれる不動産取引のプロという「個」の要素は強いが、属人的戦略には持続性の観点から限界もある。顧客感動という付加価値を再現する仕組みを、組織、業界として示していく。人手不足時代に、人材を引きつけるポテンシャルは高い。