「いまこそ前を向いて進もう」企画、『前田武志・国土交通大臣と政策を語る』シリーズの締めくくり、第5回は大和ハウス工業会長・樋口武男氏。テーマは「日本再生に住宅政策をどう生かすか」。震災被災地での夢のある街づくり、住宅供給をモデルに、それを全国にどう進めるべきかなどを探ります。
震災被災地での住宅供給「ユートピア構想」の提言
前田大臣 既に災害復興住宅融資や災害公営住宅制度などをはじめ、国として、住宅を自力で確保できる人、高齢者など自力では住宅の取得・確保が難しい人、それぞれに対して様々な角度からの支援や助成を、県や市と共に具体的に検討、対応しています。復興のビジョンは各自治体でまとまってきていますが、今後はそうした将来的に夢のある復興をどう実現するかということになります。
樋口会長 私は昨年、『ユートピア構想~西日本からの提言』という提案を出させてもらいました。新聞にも取り上げられました。あれだけの大きな被害を受けたわけですから、どうしたら夢と希望を与えることができるか、どういう形で提案することができるのかを考え続けました。応急住宅はあくまでも応急であって、本格的なものにはならない。大正時代にも津波があって、現地にはその碑が立っています。今度は平成の碑を立てなければならないわけで、安全な場所は上へ奥へということになります。
山しかないなら山を削って、150万坪でも200万坪でもいいから、そこに特区をつくって造成するのです。そして被災地の人たちに、「この町、この村の皆さん、全員に入ってもらいます、住んでもらいますよ。その代わり4、5年待ってください。突貫工事でやりますから」と。こういう街を造りますからと、分かりやすく模型を示し、理解を得ながら新しい街づくりを進めるわけです。
街があった場所、津波で海水をかぶったところは全部国が買い上げて、共同慰霊碑をつくって国定公園にする。漁業を続けたい人のためにバスルートをつくり、岸壁には冷蔵庫と加工場などの関連施設を置く。農業をしたい人には、団地周辺に農地をまとめて提供する。
そして住宅は中高層のマンションとして、コミュニティを重視して昔の仲間と一緒に住めるように中廊下型の設計を採用する。そうすると、高齢者が安心して住める、安否確認もスムーズにできる、安全な住宅になるわけです。そうした新しい切り口で、思い切った復興の夢の提言ができるのではないかと考えたのが、『ユートピア構想』です。
前田大臣 ご提案の中にはすでに取り入れているものもありますが、これからそれぞれのプロジェクトの現場に、リアリティのあるソリューションであるかを検討していくことが必要になってくると思います。ご提案は壮大なスケールの開発ですので、例えば、仙台平野のような大きな街があった沿岸域なら可能性があると思います
樋口会長 これは正に国家プロジェクト、新しい低炭素型のモデル都市づくりです。それが実現できれば、今度はそれを全国に移設する。エネルギーの自給態勢を同時につくることができ、スマートハウス、スマートシティの実現にもつながってくると思います。
環境未来都市と民活 三陸3市町が推進
前田大臣 そうした街づくりを推進しようと、三陸ではすでに陸前高田市と大船渡市と住田町の3市町が一緒に、環境未来都市構想を進めています。夢のあるプロジェクトとして、ゼロ・エネルギー住宅が集まった街区を形成します。それができると、年々価値が高まっていく街づくりが実現できます。エネルギー効率がいいので「こういう街に住みたい」という人が増えて価値が上がるわけです。
同時に、被災前より高齢化率が高まっているので、街の持続可能性を維持することを考える必要があります。厚生労働省が「地域包括ケア」の概念で政策を打ち出していますが、その地域で安心して住み続けていけるようにすることが大切です。それと国交省の街づくりを連携させれば、エネルギー効率がいい上に安心して住める医住近接の街になります。
更に、欠かせないのは世代循環が起こらなければならないということ。循環を起こすには地域に「職」が必要です。例えば、地元の木材を住宅に大いに使うことで地域の職の創出につながり、そうすると地域に世代の循環が生まれ、住宅流通の必要性が出てきます。
流通を活性化させるには定期借家権を活用して、職を得た若い世代がお年寄りの住んでいた広い家に住めるようにする。お年寄りの方は住宅を貸すことでケアサービス付きの家に移るといった循環が起こってきます。そこまでパッケージ化されて初めて、医職住近接の持続可能な街づくりになるのです。
樋口会長 スピーディに実現してもらいたいと思います。行政の方向付けと共に、我々も提案型のソリューション営業で、業界を挙げて一生懸命取り組みます。
前田大臣 その街に必要な公的な施設については、PFIで民間にやってもらう。民間がコンソーシアムを組んで、全体をマネジメントしていけばいいのです。
樋口会長 今はデフレ続きですから、住宅の価値が下がらないような街づくりを進めることが大事ですし、経済政策上もデフレ脱却を図ってもらいたいと思います。もう一つ、街づくりでお願いしたいのは無電柱化の実現。電柱があったら街の価値は上がりません。当社が中国など海外で行っている住宅開発はすべて無電柱化になっています。
前田大臣 バッテリーを入れる必要もあります。団地全体をカバーできるような定置型のリチウムイオン電池を先見的に取り入れるのです。
樋口会長 当社も昨年、大型リチウムイオン電池の工場を着工しましたが、その電池にメガソーラーで発電した電気を貯めて置けば、その地域一帯が全部使える形にもっていけます。エネルギーだけでなく、樹木が生長することで景観も良くなり、街全体の資産価値が上がります。ですから品質の高い、100年以上長持ちする家をつくれば、ストックの流通活性化にもつながります。(②に続く)