「不動産業ビジョン2030/賃貸住宅管理フォーラム実行委員会」の構成団体である不動産証券化協会は、不動産投資・運用の面で大きな役割を担い、新たに「ビジョン」「ミッション」「バリュー」の策定方針を打ち出す。杉山博孝会長に市場の現状、協会の取り組み、人材育成について聞いた。
――今の市場環境をどう見ているか。
「東証REIT指数は昨年末から上昇傾向となり、コロナ前の9割を超える水準まで回復したが、TOPIXと比較すると戻りが鈍い。要因の一つには時価総額で割合が大きいオフィスリートの低迷があり、背景として在宅勤務の浸透により企業がオフィス戦略を見直すことへの警戒感等が影響している可能性がある。ただ、テレワークの限界も指摘されており、社会経済の正常化が進めば評価も見直されると期待している」
――今後の重点的な取り組みは。
「21年はJリート誕生20周年、来年には当協会も設立20周年を迎える。今年度事業計画には、新たな事業展開として(1)中期事業計画に代わる新たな中長期的ビジョン等の策定、(2)証券化対象資産の投資運用を通じた脱炭素社会への貢献、(3)Jリートの名称認知や信頼のイメージ形成を企図した広告活動の推進、(4)投資法人制度の枠組みと実務をめぐる課題等の再検証、(5)Jリートおよび実物不動産投資にかかるリスク・リターン特性等の検証――などの活動を盛り込んでいる」
――事業計画の進ちょく状況はどうか。
「第5期中期事業計画の最終年度だった20年度はコロナ禍の影響で大きな制約を受け、積み残した課題もある。それらに引き続き取り組むと共に、従来の3カ年の中期事業計画に代え、当協会の目指すべき方向性や『ありたい姿』を表した『ビジョン』、使命・存在意義を表す『ミッション』、価値観や行動規範を示した『バリュー』を策定予定で、現在議論を進めている」
――個人向け普及活動の取り組みや機関投資家向けの活動は。
「Jリートの金融商品としての更なる普及は、今後の市場発展に向けた課題の一つ。特に個人投資家の認知度向上は大切な課題であり、今年度事業計画には重点的な広告活動の推進を盛り込んだ。これから資産を形成していく20~30代という若年層を意識した活動を展開したい。機関投資家には投資対象商品として幅広く浸透したが、欧米に比べると日本の年金の不動産投資比率はまだ低い水準にあるので、アセットクラスとしての位置付けを高めるための施策に取り組む」
重要性高まるESG
――気候変動、SDGs、ESGに関する取り組みや、先端技術の影響は。
「昨今、ESGを重視する機関投資家が増加していることから、リートにおいてもサステナビリティへの取り組みの重要性が高まり、環境認証を取得する例などが増えている。当協会でもESGに関する事例集やガイドブックの作成等を進めている。また、先端技術に関しては、今後、事業展開を進めている企業の取り組みを調査し、その影響について研究を進めたい。いずれも『ビジョン』の策定に当たって意識すべき重要な論点と捉えている」
――アセットの多様化への対応はどうか。
「市場の拡大のためには、資産と資金の両面における対象拡大が求められる。この点で投資対象資産の多様化も重要な論点である。例えば、ヘルスケアについては、官庁・団体・学会等と連携し、介護施設や病院の関係者の認知を深めるための活動を行う。また、学識経験者や専門家等と連携し、インフラ・PREを証券化投資の対象とするための課題の明確化や行政との対話に取り組む」
――人材育成(証券化マスター)の取り組みは。
「不動産証券化に関する高度な専門知識と高い職業倫理を有するプロフェッショナルを養成する不動産証券化協会認定マスター資格制度は、立ち上げから約15年で認定者数は9000名を超え、市場の健全な発展に大きく寄与している。引き続き、優秀な人材の育成、裾野の拡大に取り組む。また、認定後の知識のアップデートや、より高度な専門知識の習得のための継続教育では、ウェブの積極的な活用を図るなど、自己研鑽(けんさん)に取り組みやすい環境を提供していきたい」