東京都内にあるアパートの階段の一部が崩落し、居住者が転落死する痛ましい事故が4月に発生した。故意の手抜き工事が原因という悪質なケースだが、賃貸住宅での事故は全国各地で断続的に起こっており、今後自然に老朽化が進んでいく賃貸住宅で死傷事故が増加しないかと懸念される。現在、借家ストックは1906万戸に上り、総住宅数の約3分1以上を占める。これらの適切な賃貸管理の遂行と、賃貸住宅が国民の生活基盤であるという観点からも死傷事故は絶対に防がなければならない。賃貸住宅が過半を占める空き家問題と同様、国民の安全を揺るがす喫緊の社会問題と言える。
あるシンクタンクの推計によれば、この先一定の新築供給と除却が進む想定で、築30年超の貸家は現在の1186万戸から20年後に1.5倍の1808万戸に、築40年超の貸家は約2倍の1374万戸に増加が見込まれる。一方で「民間賃貸住宅の大規模修繕等に対する意識の向上に関する調査」(平成28年度・国交省)によると、長期修繕計画を作成していない個人家主は自主管理47.4%、委託管理44.1%、サブリースでも31.2%に上り、賃貸住宅の維持保全に対する意識の低さは深刻だ。これに起因して、オーナーと施工や管理の業者との間の責任の所在のあいまいさも問題点として浮かび上がる。結果的に実情を知らない入居者が被害を被るという最悪の事態と言わざるを得ない。
こうした事態に対し国は、オーナーや管理業者向けに、建物の維持保全を注意喚起し、計画修繕の重要性と基礎知識を周知、習得する事業を推進している。しかし、老朽化がますます進むことや、ずさんな施工の存在、計画修繕に対するオーナーの意識の低さ、修繕資金不足など課題山積で対応に苦慮しているのが実情だ。
6月、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)が全面施行となる。200戸以上の賃貸住宅を管理し、その維持保全、金銭の管理を行う業者に、賃貸住宅管理業者登録制度への登録を義務化する。登録業者には、居室及び共用部分、設備等の点検・清掃等、必要な修繕を行うと共に、管理業務報告が課せられる。戸数の多寡にかかわらず法令順守は当然との判断から、この登録を正会員要件に位置付けるなど関係団体も対応を見せている。賃貸住宅管理の専門家として、建物の長期計画修繕策定や適切な維持保全などの安全の管理には全力を挙げてもらいたい。
同じ不動産管理業である区分所有のマンション管理では、流通市場で管理状況を開示し資産価値に反映する「管理の見える化」が始まった。賃貸住宅市場でも、管理の品質によって物件、オーナーや管理業者の評価にも差が出てくることになる。賃貸管理に対する社会の期待がますます高まる中で、専門家としての責任と役割を果たしてもらいたい。