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特別企画 一般財団法人住宅金融普及協会 創立70周年 貫いた住宅市場への貢献

 今年、創立70周年を迎えた住宅金融普及協会(安齋俊彦会長)。70周年を記念し、安齋会長と住宅ローンアドバイザー委員会の委員長である明治大学の加藤久和教授の対談が行われた。戦後の住宅不足の時代から、現在に至るまでの住宅および住宅金融の歴史を踏まえ、対談では住宅金融公庫の業務支援、住宅の質向上への取り組み、住宅金融における調査研究、人材育成、情報提供といった、同協会が果たした役割の重要性が改めて語られた。そして、今後の住宅業界・市場を見据え、時代の変化に応じてその役割を変化させてきた同協会の方向性も示された。

戦後の住宅史と共に

 対談は同協会の歩みを振り返るところから始まった。

 安齋会長「当協会の設立当時、我が国は住宅の量が約420万戸不足する時代だった。絶対的な量の不足を解消するため、住宅金融公庫融資が創設され、当協会はそのバックアップを行ってきた。具体的な役割は(1)エンドユーザー、事業者、金融機関に対する公庫融資のバックアップ、(2)公庫融資住宅の技術基準普及のサポート、(3)住宅・金融問題を解決するための調査研究の実施――の3点だ」

 加藤教授「戦後、高度成長と共に多くの若者が都市圏に集まってきた。その際、一番大事なのが住宅だ。若い家族の住宅需要を支えたのが公庫融資なのは間違いない。更に言えば、住宅の質の担保まで行ったのが公庫、その公庫を支えたのが普及協会であり、非常に大きな貢献だった」

 安齋会長「戦後の住宅政策は公庫融資、公団住宅、公営住宅が3本柱。その中で公庫融資は住宅取得者の自助努力を前提に、国の利子補給による低利融資で持ち家取得を支援する仕組みだ。戦後建設された住宅の3割は公庫融資であり、それだけ支持されたということ。建築基準法を上回る公庫融資住宅基準により、住宅の質向上にも貢献した。公庫融資の戦後の役割に対して当協会が微力ながらお手伝いができたことは光栄だ」

 加藤教授「若い世帯にとって公庫融資は心強い味方だった。質が担保されている安心感は大きい。公庫融資が住宅融資の先鞭になり、民間の住宅融資も発達した。住宅市場の拡大と共に、住宅市場の調査業務も重要だったと思う」

 安齋会長「公庫融資は業務を民間の金融機関に委託して進められた。民間金融機関のために、当協会は手引きをつくり、担当者向けにセミナーを開催した。公庫融資を通じて民間の金融機関の中に住宅ローンの知見が蓄積されていったのではないか。調査のほうは1980~90年代に国内外の住宅政策と住宅金融をテーマに幅広い研究を進めていた。その成果が住宅および住宅金融の関係者、更には大学等の研究者の役にも立ったと思う」

 加藤教授「80年代はまだ自由化に踏み出すことができない環境だった。アメリカでは自由化の流れがあり、証券化など住宅に関して様々なタイプの融資があった。そこに目を向けて調査研究をされていたのは先見の明がある。当時の研究が長期固定住宅ローン『フラット35』につながったのではないか。住宅融資市場に関して海外も含めて研究したのは非常に評価できる」

金融自由化を経て 住宅LA制度開始

 安齋会長「1990年代の低金利政策と金融自由化を契機に、民間金融機関が短期固定金利型ローンなど多種多様な住宅ローン商品を提供し始めた。もう一つの大きな変化は証券化のスキームをベースにした住宅金融支援機構の証券化型住宅ローン『フラット35』の登場だ。また、金利による差別化が難しい状況の中では団体信用生命保険の多様化が広がっている。高齢者向けの住宅ローンとしてリバースモーゲージも登場した」

 加藤教授「住宅購入者からすれば多様な住宅ローンをどう考えていけばいいのかが重要だ。多様化と共に複雑化しており、情報提供が必要になり、普及協会がサポートしてきた。購入者の住宅ローンや金利に対する理解度が必ずしも高くないのが若干心配だ」

 安齋会長「広く住宅と住宅金融に関して情報を提供する方向にかじを切ったのが2000年ごろ。01年にウェブサイトを拡充して『住まいのポータルサイト』という形で広く民間のローンも含めた内容を提供してきた。商品の特性やリスクを利用者がどこまで理解しているかは大事な部分だ。住宅ローンの決定に大きな影響を持つ住宅事業者の営業担当者を中心に、住宅購入のお客様が最適な住宅ローンを選択できるように、商品知識やリスクなどをアドバイスできる人材『住宅ローンアドバイザー』(住宅LA)養成を05年からスタートした。住宅LAの受講者累計は約6万9000人。受講者の7割が住宅・不動産業従事者だ。また、各地の業界団体と連携しながら、地域ビルダー支援セミナーも17年から開き、知識の普及に努めている」

 加藤教授「最近では失業保険付き住宅ローンといった特色ある商品がある。住宅LAがどういうふうに伝えていけるのかがますます重要になる」

将来見据えた資金計画を

 安齋会長「『人生100年時代』では高齢期の住まい方が注目される。高齢者こそ安心、快適、健康的な住まいに住む必要がある。住宅のリフォーム、建て替え、住み替えを支援するリバースモーゲージが注目されている。住宅金融支援機構の住宅融資保険を活用した『リバース60』の利用が増えているのもその表れではないか」

 加藤教授「65歳まで働くとすると、人生100年は定年から35年ある。若い人が30年、35年で住宅ローンを返す期間と同じ長さだ。定年から住宅ローンを改めて考えるインセンティブは高まってくる。リバースモーゲージがもっと普及すればいい。子孫に負債を残さないノンリコース型の『リバース60』などの提供は時代のニーズに合う。また、『残価設定ローン』などの新商品もある。高齢層にも若年層にも同時に視野に入れた商品展開を支えていかなければいけない」

 安齋会長「ところで、気になるのは長期にわたって日本銀行のマイナス金利政策が続いていること。住宅ローン金利は低利のままだが、住宅取得者の借入依存度がかなり高くなっている。共働きで借り入れを行うと、借入可能額もかなり大きくなる。家計の中における負債額が増加している気がする。今後の経済・金融環境がどうなるかは分からないが、リスクの認識や備えを住宅ローンを組む人に考えてもらいたい」

 加藤教授「会長の指摘の通りである。背景には低金利や不動産価格の上昇がある。金利の低さに誘われて変動金利を選択した場合、将来の金利上昇リスクを購入者が認識しているかどうかが心配だ。固定金利を選択すると、変動よりも少し高い金利になるが、金利変動リスクを低減させることも考える必要があるのではないか」

 安齋会長「バブル崩壊以降、低金利が続き、いま住宅を取得している若年層は金利上昇の経験がない。彼らは金利が上がるものだということを肌で分からない。金利は先が読めないもの。変動金利に含まれたリスク、家計におけるイベントも含めて、住宅ローンが選択されることが重要になる。当協会もしっかりと情報提供をしていきたい」

住宅の質向上にも寄与

 同協会は住宅金融のみならず、公庫融資住宅基準の普及、建築確認・検査などの審査業務を通して、住宅の質の向上にも寄与してきた。最近では、脱炭素社会実現に向けた世の中の動きに合わせ、省エネ適判、BELS、グリーン住宅ポイントなどの業務にも力を入れるとともに、省エネルギーの義務化の動きに合わせ、設計事務所や住宅事業者に対する情報提供にも積極的に取り組んでいる。

 安齋会長「戦後のバラック建築からの脱却から始まった。住宅の安全性、居住水準など住宅の質の確保は大事な使命だ。当協会は公庫融資住宅の基準を広く普及させた。具体的には工事共通仕様書を作成発行、住宅技術者のためのセミナーを開催してきた。1999年に建築基準法が改正され、建築確認業務が民間に開放され、当協会自らも工事審査業務を行うようになった。当協会は2000年に民間の確認検査機関として建築物全般について検査業務をスタートした。更に、住宅性能評価業務、構造適判業務、省エネ適判業務なども順次開始してきた。既存建築物調査として、20年に建築基準法適合状況調査業務も開始している。一方、ストックの有効活用としては1991年から「住まいの管理手帳(戸建て編、マンション編)」を発刊した。これは住まいの手入れの手引きに相当し、現在も発刊しているが、累計で120万部となる。昨年11月には設備面などを刷新すると共に、防災面も盛り込んで改定した。更に、頻発する洪水・水害によるハザードマップの必要性といった変化にも適切に情報を発信していきたい」

〝知の仕組み〟発信に期待

 加藤教授「地球温暖化や省エネ対応は大事な問題だ。特に住宅は長期にわたる資産であり、長期のトレンドを考慮した技術を取り入れることも必要になる。新しい技術、新しい防災対応、省エネ対応の住宅がどのような形で進んでいるのか、そういった情報もぜひ普及協会で広めてもらいたい。様々な調査研究にも力を注いでもらい、将来の住宅を支える〝知の仕組み〟の発信も普及協会に期待する」

 安齋会長「防災の観点では関連動画サイトと連携し、当協会のウェブサイトに掲載した。連携したウェブサイトと『住まいの管理手帳』も連携しており、情報を幅広く、重層的に提供する取り組みを進めてきた。省エネ、ZEH、IoT、防災など住宅自体が変化に富んでいる。大手ハウスメーカーは先導的に取り組んでいるが、地域の工務店・不動産事業者の対応が課題として浮き上がってくる。また、住宅価格もアップすることから政策的な支援の必要性の議論も出てくる。こうした動きも含めた情報提供をしっかりと実施したい。調査研究では今年度住宅の設備と仕様に関する動向を調査しており、身近なところから少しずつ始めていく」

 加藤教授「長い人生を考えると、住宅を取得することはますます大事な人生でのイベントになっていく。人生100年時代に即した住まい方の変化や高齢化対応、都市部でのコンパクト化対応など、住宅を巡る環境はこれからも大きく変化するのではないか。そうした中で普及協会はどういう役割を担っていくのか」

時代に応じて役割も変化

 安齋会長「当協会は70年間、同じ仕事を行ってきた訳ではない。世の中の変化に応じて役割を変化させてきた。実は70周年を機に当協会の職員有志で協会の事業をSDGsの17の目標を踏まえてマッピングし、自分たちの仕事の立ち位置を確認した。ウェブサイトやセミナーによる適切な住情報の発信、住宅LA養成による住宅ローン市場の健全な発展への貢献、住宅の審査・検査機能等を活用した既存ストックの有効活用、脱炭素社会に向けた取り組みを強化する。また、現場にいるお客様の声を聞き、国の施策、方向性と現場とのギャップを認識し、小さなことでも埋めていく手伝いを地道に行う。国が進めているDXの流れでは書籍の電子化、動画の活用、確認申請などの審査の電子化にも積極的に取り組んでいきたい」