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社説 「人の死の告知」ガイドライン策定 業界主導で情報の蓄積と共有を

 「人の死の告知に関するガイドライン」が国土交通省から公表された。過去に自殺や他殺、事故死など「人の死」が発生した取引の対象不動産について、宅建業者が宅建業法上負うべき説明義務の解釈を示した。

 当事者間でその告知がないことを理由に心理的瑕疵があるとして、訴訟や契約解除などのトラブルがこれまで絶えなかった。取引の現場では売主、貸主に心理的な瑕疵も申告してもらう告知書などを作成して対処しているが、そもそも「人の死の告知」の要否の判断基準がなく、仲介会社の判断に負うところが大きく取引の阻害要因となっていた。

 業界からは、宅建業者の調査説明義務の範囲がより明確化され責任の軽減につながることや、単身高齢者の円滑な入居促進に資すると評価の声が上がっている。一方で売買契約における告知期間が示されなかったこと、トラブルに陥った際は宅建業者の説明不足を問われる不安は払しょくできないといった懸念の声も聞かれる。これに対しガイドラインも繰り返し指摘している通り、あくまでも「裁判例や取引実務等を踏まえ、現時点で妥当と考えられる一般的な基準」に留まり、国交省では引き続き見直していくとしている。

 ガイドラインは、対象範囲を居住用不動産に限定し、告知書などに記載を求めることで調査義務を果たすものとした。一方、対象不動産で発生した自然死・日常生活での不慮の死は告知不要と明示した。隣接住戸・日常生活で通常使用しない集合住宅の共用部分で発生したこれ以外の死と、特殊清掃が行われた死も不要。賃貸借取引の対象不動産・日常生活で通常使用する共用部分で発生した死で、特殊清掃が行われた場合も含めて発生から概ね3年経過後は告知不要とした。いずれも原則、「告げなくてもよい」とした。しかしながら、その事件性や周知性、社会に与える影響などが特に高い事案、買主・借主から問われた場合や、特段の事情があると認識した場合には「告げる必要がある」ともしており、不透明な部分も依然、残されている。

 宅建業者の使命は、「取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合にはこれを告げなければならない」大原則に立ち、取引当事者の合意に基づき不動産取引を適正かつ安全に仲介することだ。ガイドラインはあくまでも「人の死の告知」の一側面に過ぎず、これに当てはめられないことも多いと推測される。今後の取引においても、ガイドラインを前提としつつも、それが指針であることを十分認識して、慎重に取引を進めることが求められる。策定に当たり事案の情報や判例の蓄積が少なく足かせとなった。表面化していない「人の死の告知」に関わる事例も業界には多くある。それらも含めた情報の蓄積と共有に業界主導で取り組み、ガイドラインをより確かなものへ仕上げていくべきだ。