政策

社説 賃貸新時代と定期借家権 社会インフラ支えるツールに

 賃貸住宅市場は昨年6月に賃貸住宅管理業法(管理業法)が全面施行され、また「大規模修繕の積立金損金算入制度」が創設されるなど賃貸経営をめぐる環境が大きく変わり始めた。この機にこそ、定期借家権の活用を改めて検討すべきだ。賃貸住宅でも長期修繕計画のもと、ストックを良好な状況に維持していくことが求められているが、そのためには定期借家の導入が極めて有効と思われるからである。

 というのも、長期修繕計画をサポートする今回の損金算入制度をオーナーが活用しようと思えば、まずは積立金の原資となる賃料収益を安定的に確保していかなければならない。しかし、現在の賃貸住宅市場を取り巻く環境は、少子化による若い世代の減少や、コロナ下で居住環境の改善を求め分譲市場への流出傾向が強まるなど空室リスクが高まっている。「積み立てをしたくても足元の家賃収入に不安がある」というオーナーが多いのが現状だろう。借り手市場の今は、一度空室が発生すればその無収入期間が長期化してしまうリスクも高い。

入居期間長期化に

 そこで、空室で苦しむぐらいなら定期借家権を活用して入居期間を長期化し、将来の賃料収益を確保する手法が注目される。具体的には定期借家契約で例えば向こう3~5年は入居し続ける特約を結び、その代わりに家賃を普通借家権の住戸よりもディスカウントするやり方だ。

 また、定期借家ならば建て替え時期が迫っているアパートでも、それまでの期間限定で貸し出すこともできる。このように、定期借家権を活用する最大の目的は、オーナーの資産を有効に活用できるようにすることだ。

 更に、経済格差拡大が懸念される中、これからの賃貸住宅には高齢者や母子家庭、外国人なども含めた幅広い層に良質な住まいを提供するという社会インフラとしての役割も期待されている。これまでの普通借家契約では、そうした住宅弱者への貸し出しは敬遠されがちだったが、トラブルリスクを軽減できる定期借家ならオーナーも貸しやすくなる。

 ただ、アットホームの調査(21年5月発表)によると、定期借家権の導入率は、比較的利用されている東京でも4~5%と依然として低い。その理由を不動産事業者に聞くと、「入居者にとって不利だから」「普通借家契約に特段の不都合はなく、定期借家制度を活用する必要性を感じない」といった回答が多い。しかし、これからも普通借家権一本で賃貸新時代を担っていくことができるのだろうか。オーナーがその資産を有効活用し良質なストック形成を維持していくことができれば、それは入居者の良質な居住確保にもつながっていく。今こそ、定期借家という契約方法を見直す好機だ。