業務の〝デジタル化〟は、効率化や生産性の向上に期待できるとされる。それに懐疑的だった不動産会社が、別の効果もあると知れば、顧客の利便性や満足度が一層向上するのかもしれない。平田不動産(福井県小浜市)の平田稔社長は、「デジタル化を自社のものにするべき」と強調する。その意味とは。始まりは、WealthPark(東京都渋谷区)が提供する資産管理・運用システムと〝オーナーアプリ〟で構成する『WealthParkビジネス』の活用だった(文中・敬称略)。
――活用する前の状況は。
平田 「さまざまな業務ツールを活用してきたが、部分最適にとどまり〝全体最適化〟が10年続く課題だった。その〝カオス〟な状況で思考錯誤して頭に思い描いていた〝理想の形〟がオーナーアプリだった。他社アプリの提案も受けたが、効率化など、当社にとってのメリットのみを訴求されただけだった」
――理想の形だった。
平田 「当社の業務がたとえ効率化されても、顧客の利便性が高まらなければあまり意味がない。求めたのは、顧客である物件オーナーにとっての〝満足〟であって、その〝価値〟を当社から提供したい、と考えた。その同じ目線をWealthParkのスタッフは持っている、と感じて導入を決めた。優れたデザイン性にも正直、魅了されている」
――同じ顧客目線で。
五反 「オーナーアプリは、物件オーナーと不動産管理会社がチャットなどで気軽に交流し、やり取りや情報を集約して共有ができる。効率化で長時間労働の是正にもなる。これは単に、事業者側だけが〝楽をするため〟ではない。効率化で創出した時間を提案業務などに充て、潜在的なニーズを知り、掘り下げられる。顧客に対する最適なアプローチにつながっていく」
――最適なアプローチを。
村上 「平田不動産の日々の取り組みをしっかりと〝可視化〟する効果もある。日頃の業務を〝知ってもらう〟ことで、不動産管理会社の〝賃貸経営のパートナー〟としての信頼関係や信用も深まる」
――信頼関係が深まる。
平田 「パートナーとしての適切な業務を担ってこそ、正当に報酬が得られる。オーナーアプリの活用は、信頼や信用を高められ、有用性、可能性は更に広がっていく。物件や運営の改善点について物件オーナーと一緒に気付きやすくもなる。デジタルに苦手な人もいるが、地道に周知して活用を〝お願い〟する努力も必要。デジタル化を〝自社のもの〟として取り込んだ先に、物件オーナーや入居者の喜ぶ顔があると思う」
――可能性が広がる。
櫻井 「デジタルツールを導入して定着させるステップを着実に踏めば、蓄積された〝データ〟を活用して新しい体験価値を生む〝DXの世界〟が始まる。いずれは社内のデジタル運用で自立できるよう、挑戦と改善を繰り返す〝らせん状〟に上る取り組みの節目ごとに当社がDXコンサルティングで支援する」
――いずれは自立を。
村上 「平田不動産では、平田社長自身がビジョンを明確にしており、その影響を受けて社内で高まった意識や納得感、業務の姿勢がデジタル化の移行をスムーズにした。何のために行うのか、どのように進めるのか、目的をはっきりとさせ、共有できるのかどうかが重要だと感じた」
――共通認識にする。
平田 「経営トップだけが走るのでなく、マネージャーなどの部下に意識や権限を委譲していく。これは、普段の仕事全般にも当てはまる。それが部下や組織、企業を成長させて、新しい可能性を生み出していくと考えている」
――企業の成長になる。
五反 「デジタルツールを使ったことがなく、分からないために従来のままがいい、との声を各社から聞く。そのハードルを少しでも下げられるよう、分かりやすくアプリの有用性を伝えていきたい」
――ハードルを下げる。
櫻井 「特に不動産業務は人と人のつながりが仕事の本質であると思う。活用できる場面では最新テクノロジーを使い、業務を効率化することで〝人にしかできない〟業務に注力できると思う」