JR品川駅改札を出て、港南口へ向かう2階レベルの長く巨大な通路には両壁にデジタルサイネージ画面が連続し、一種異様な感覚になる。港南口へ出ると、右手にインターシティなどの超高層ビル群があり、左手にはNTTグループやソニーの高層ビルがあり、その先には浄水場の上に建設された超高層ビル 品川シーズンテラスが建つ。これらはこの20年ほどの大規模再開発で建てられた「近代都市」だが、駅の正面に小さなビルが密集している不思議なエリアがあることに気づく。ここが東京都港区港南2丁目2番地「品川駅前港南商店街」で、複雑に入り組んだ路地とひしめき合う無数の酒場が今でも生きのびている。路地が狭いため、一見ビルの隙間か通路なのかわからないほどだ。しかし、いったん吸い込まれてしまえば別世界、カスバのような空間がある。狭く曲がりくねった路地を歩くと、小さな酒場をいくつも見つけることができる。もつ焼・もつ煮が多いが、この先にある芝浦の食肉工場から、内臓肉を容易に調達できたことがその理由らしい。こうして駅前の闇市が形成され、駅前大衆酒場の先駆けになったという。
先日、品川港南口の会社での集まりの後、「品川駅港南商店街」脇を品川駅へ歩いていると酒場心がうずき、ビルの隙間の路地に入り込んだ。赤い提灯の目立つ「居酒屋 路地裏」に入り、カウンターで黒ホッピーと激辛牛筋煮込みをいただく。1985年開業というから40年近い。店のオペレーションはミャンマー4人組に任されている。みな素朴だが笑顔で働いていた。牛筋煮込みは確かに美味いが、その他の酒と食事は特段どうということはない。このエリアの圧倒的な特異性にしびれるのだ。テレビ番組などで多く取り上げられるのもそのためだろう。いずれ「街の特異点」も再開発などで消えてしまうのだろうか。その前に訪れることをお薦めしたい。 (似内志朗)