温泉リゾート地として名高い地に、1964年に南紀白浜空港が設けられてから首都圏とも近くなった。仕事を終えた後に半日ほど時間があり、番所山の岬突端にある南方熊楠記念館を訪れた。和歌山が生んだ博物学の巨星。疲れを知らぬ知的好奇心、世界を股にかけた行動力、綿密な模写、曼荼羅から垣間見る熊楠の宇宙。記念館から海沿いを延々と歩き、日もだいぶ暮れてきた時刻に長久酒場を訪れた。海岸沿い国道に面してポツンと立つ、昭和35年(1960年)創業の南紀を代表する老舗酒場である。 居酒屋探訪 太田和彦氏に東京月島「岸田屋」、大阪天王寺「明治屋」と並び日本三大居酒屋として紹介されたこともあるという。地元の魚屋や漁師から直接仕入れる魚は新鮮だ(店内に生け簀もある)。海南の銘酒長久熱燗で勝浦産目鉢マグロ・おでん・秋刀魚寿司・骨煎餅などを食す。どれもが絶品だ。酒は生ビール、瓶ビール各社。燗酒長久徳利500円、紀伊国屋文左衛門800円、長久辛口800円。焼酎、梅酒(さすが梅産地)、酎ハイ類など取りそろえている。刺身はカワハギ2900円、生マグロ1400円、生タコ1100円、サザエ1300円、アオリイカ990円など。季節により取れたてのカツオ(もちカツオ)を出す。焼き物は、ウツボ1100円、鯨1100円、貝柱800円、イノシシ1200円など。揚げ物は、骨煎餅600円、ポテトフライ600円、フグ唐揚げ900円。おでんはダイコン・卵・厚揚げ・蒟蒻・ごぼ天・ちくわ・餅巾着150円、牛筋200円など。自家製カラスミ2200円、クジラウデモノ700円、明太子800円、カエルの焼き物1300円などの珍味も。秋刀魚寿司750円、マグロ丼1100円、釜揚げシラス丼900円などの飯物もある。遠方だが、一生に一度は訪れたい酒場だ。 (似内志朗)