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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇134 BESSはオアシス業へ 経営新体制がスタート 砂漠化する心に花を

 「時代が乾くなら、雨になろう。こころが乾くなら、花になろう」

 BESSのオアシス業への新たな展開をこれほど詩情豊かに語る言葉はほかにない。それもそのはず、もともとBESSというブランドは言葉で出来ている。家というハードそのものではなく、そこから生まれる暮らし(ソフト)を探求しているからである。幸せな暮らしとはなにか、人間とはなにか、そうした目に見えないものを探求する手立ては言葉による思考以外ない。

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 その目に見えない価値を創業以来本気で追求してきたという意味でBESSは確かに住宅業界の〝異端〟であった。しかし、時代はBESSに追い着きつつある。もはや異端ではないのかもしれない。それが「これまでは独自路線ゆえに内向きだったが、これからはBESSに共感してもらえる様々な分野の人たちとの交流を積極化していきたい」(二木浩三会長)という今回の方針転換につながったようにも思う。

 ただ、内向き志向からの脱却はBESSにとって〝第二の創業〟とも言うべき大きな挑戦になる。6月の株主総会でアールシーコア新社長に就任した壽松木康晴(すずき・やすはる)氏は6月26日の経営ビジョン発表会でその決意をこう語った。

 「これからは事業の種類、場所、相手方を問わずBESSの価値観に共鳴してくれる人、自治体や企業などとも積極的に連携し、これまで見逃していたBESSファンの獲得に努め、戸建て事業とのシナジー効果を高めていく」

 新たに進出する主な領域としてはリゾート開発、タイムシェア別荘、梺(ふもと)開発、地方移住、CLTログによる保育園建設などの特建事業を挙げる。中でも非住宅系の特建事業は戸建て事業に次ぐ〝第二の柱〟に育てていくことも宣言した。

二つの使命

 もちろん、こうした事業領域拡大にはリスクが伴う。しかも今は人材確保が難しい。記者からは「不動産開発など新たな事業に必要な人材はどうやって確保していくのか」という厳しい質問も出た。これに対して壽松木社長は人材難であることは認めた上で「今は働く意義や目的を背景に人材の流動化も進んでいる」と指摘し、感性マーケットにやりがいを求める人材獲得の可能性を示唆した。

 壽松木新社長の使命は二つある。一つは「創業者から社長を引き継ぐことは創業者精神を受け継ぐこと」と語るように創業以来のメイク・マーケットの精神を堅持し、感性を重視したBESSのブランド価値を最大化していくこと。もう一つは戸建て事業の完全復活と利益体質に向けた体制強化である。壽松木氏は現在58歳。大京出身で新日本建物の社長を経て16年にアールシーコア入社。直前は執行役員営業統括本部長。

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 この日、壽松木社長の発言で心惹かれたことがもう一つあった。それは日本の林業活性化にとって大きな課題となっているのが大径木(大きく育ち過ぎた立木)の活用が難しいことだが、それを太い丸太(大径材)にして使えばログハウスにはむしろ適していると語ったことだ。

 同社はかつて輸入材に頼っていたことで供給が途絶え、大きなトラブルを抱えた経験から、現在は国産材への切り替えを進めているという。森が国土の7割を占める我が国にとって重要な林業活性化にBESSが貢献できるとなればファン拡大に弾みがつく。

 そして筆者にとっては、二木会長が冒頭の挨拶で「人間が求める家とはなにか、幸せとはなにか、ヒトとヒトとの関係はどう構築していけばいいのか、そんな途方もないことを考えながらビジネスをしてきたが、こうしてバトンを渡すところまでは、どうにかやってこれたのかな…」と淋しげに語った言葉も忘れ難い。

 どうにかどころか〝感性マーケット〟という時代の先を行き、時代を追い着かせた功績は大きい。