東京都宅建協会第10ブロックで監査役を務める耶馬台コーポレーション社長の宮地忠継氏はIT(情報技術)がもたらす不動産業への影響にもっと危機感を持つべきと主張する一人である。自身は「この3年半、朝から晩まで死に物狂いでプログラムの勉強をしてきた」と話す。その熱意の裏にあるものとは――。
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宮地氏は本コラム第1回(21年6月1日号)に登場したとき「今後、IT化した不動産業者とそうでないところとの差はどんどん大きくなる」と指摘していた。その頃はすでにプログラムの勉強に入っていて21年2月には不動産の将来価格を計算するプログラムを特許庁に出願している。
以来これまでに出願した不動産関係の計算システムが5本もある。ITに習熟するにはプログラムの知識が不可欠という認識からである。それにしても自らコンピュータプログラムを勉強する中小業者の社長もめずらしい。
宮地氏はこう話す。
「不動産業とITには強い親和力がある。不動産業は完全な情報産業だからだ。
しかしその心臓部、つまり本当の情報処理の部分はまだほとんど開発されていない。現在は事務処理が中心だ。顧客自身が認識していない〝真のニーズ〟をつかみ、その要件を満たした不動産を探し出して提示するソフトはまだない。またAIで様々な市場の未来を予測するソフトも必要だろう」
だが、そういうものは不動産テック会社が開発するだろうから、それを購入して
使えるようになればいいと考えるのが普通の中小業者だ。大手は資金力があるから
自前で開発することもできるが中小はそうもいかない。ただ宮地氏は「業者に頼め
ばいいと簡単に言うが実際に自分でやってみれば分かるが、システムというのは作
り始めると失敗の連続で何度も作り直しがある。実はそこが醍醐味で肝心なところ
でもある」と話す。
どういうことか。昨今はDXセミナーが盛んだが、そこで必ず言われるのが「一
番大事なのはDXで自社が何をしようとしているのかを明確にすること」という忠
告だ。実は中小業者は自社の目標を絞りやすいと思う。だがそもそもDXとは何で、
何ができるのかを理解していなければDX導入の目的は見出せない。だからこそプ
ログラムの勉強が必要と宮地氏は言いたいのではないか。
分業化する社会
社会の進化は〝分業化〟と言われるが、ITの進化がそれを加速する。そして今「社会はITを作れる人・正確に理解できる人と、そうでない人に分かれ始めた」と宮地氏は警告する。なぜ警告なのか。
おそらく同じ分業でもITは分からないからと専門家にまかせてしまうことと、自分が食べる物や着る物の生産を他者に依存することとは決定的に違う何かがあるのではないか。ITの進化がこの社会にもたらす根源的意味にまだ多くの人が気付いていないということかもしれない。
「ITの事を知っているのと知らないのとでは先々の見方や人生観がまったく違ってくる。あるアイデアが浮かんだとき、それを形にするにはどうしたらいいかを自分で考えるのと、自分にはできないと諦めてしまうのとでは生き方に大きな差が出てくる」と宮地氏は言う。そして「自分を諦める人生はつまらない。だから必死にITをやっている」と。
ITの象徴、AIの進化のスピードは人類の想像をはるかに超えている。全人類が持つ知恵の総和をはるかに超え、歴史、科学、生物学、地理、医療、芸術・文化、ゲームあらゆる分野で誰よりも賢いAIが登場したとき人間や社会はどう変わるのか。人生の目的、働く意義、教育、政治、経済すべてが根底から覆るかもしれない。その予感を冷静により正確に受け止めることができるのは「ITを知っている」側の人間ということなのか。