広く名が知られている赤羽の酒場は「まるます家」だろう。場所柄、夜勤明けの工場労働者が朝から飲める酒場が多かったという赤羽だが、朝呑み・昼呑みの「伝統」は今に受け継がれている。再開発で昭和のオーラが消えつつある京成立石に代わり「酒都」と呼ばれるようになったとも聞く。赤羽一番街商店街には酒場がひしめくが、その中でも商店街角地に立つ「鯉とうなぎのまるます家 総本店」の看板は目立つ。創業は1950(昭和25)年、元々は「自転車預かり」の店だったというが、朝呑みの店を始めたところ焼酎が美味いと評判になり、夜勤明けのブルーカラーの男たちで賑わうようになったという。今は客層も変わり、地元客、酒呑みツアーのオヤジたち、女性グループ、若いカップル、外国人観光客など様々だ。夕刻となれば待ち行列ができるほどの人気店だ。
月曜定休、朝9時からだが夜は9時半までとちょっと早い。店内は左右に長いコの字形カウンター席が2つ、左奥に4人掛けのテーブル席が3つで計30席ほど、2階は団体用座敷。店内を見渡せばメニューの白い紙・黄色の紙が四方の壁に並び、酒場の雰囲気を盛り上げる。店自慢の焼酎は黒五代、サッポロ焼酎の一升瓶が並ぶ。麦酒は瓶・生ともサッポロ・エビス中心。名物の1リットルのジャンボチューハイ「ジャン酎」を飲む客も多い。酒は丸真正宗・金升、生酒、チューハイ類、ハイボールなど。しかし「酒は3杯まで、酔って入店しない」が店のルール、長居無用で回転も速い。食事も豊富だ。シメ鯖、鮪のとろ刺し、鮪ブツ、馬刺し、すっぽん鍋、ホタルイカ沖漬け、ニシン菜の花和え、じゃこ天、グリーンアスパラ、ナマズ唐揚げ、いか浜焼き、牛筋煮込み、季節のお浸しなど。大方300~800円と手頃だ。
「鯉とうなぎ」というだけあり、鯉の生刺し、鯉こく、鯉のあらい、鰻の蒲焼と白焼、鰻カブト焼き、お土産の鰻弁当も用意してくれる。日の高いうちから、ジャン酎を飲む解放感は格別だ。 (似内志朗)