不動産女性塾塾長で北澤商事会長の北澤艶子氏は2008年1月から翌年9月まで日本賃貸住宅管理協会(日管協)の会長を務めた。その頃はまだ男社会の色彩が濃かった不産業界団体のトップに初の女性会長が実現したのには当時日管協副会長の一人だった三光ソフランホールディングス社長の高橋誠一氏が強力に北澤氏を推したことが大きかったと言われている。
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その高橋氏が7月23日に明治記念館で開かれた第39回女性塾の講師として登壇したのは偶然だったのだろうか。というのも、この日は北澤氏の卒寿の誕生日で講演終了後には盛大なお祝いが行われた日でもあったからである。
冒頭のあいさつで北澤氏はこれまでの人生を振り返り「二十歳の小娘だった私がなにも分からないまま不動産業を始め、今では天職とも思えるほどに不動産業が好きになり順調に会社を伸ばしてこられたのも、今日お招きした高橋社長を始め、これまで多くの素晴らしい方々に出逢えたからで私は本当に運がいいと思います」としみじみと語った。
その北澤商事は2年後の創業70周年を機に現取締役の北澤龍一氏が社長に就任することが内定している。現社長の北澤敏博氏からの親子リレーで、北澤会長の「信用第一」の経営理念が親子3代に渡って引き継がれることになる。
しかし、一般家庭の多くは核家族で親子3代どころか子供は成長すると親元から離れ新たな家庭をもつ。残された親は元の夫婦だけの暮らしに戻り、いずれ配偶者を亡くせば一人となり、やがて消えていく。親と子が家族として共に暮らす月日はわずか30年にも満たない。そしてその子もまた親と同じ運名をたどる。 そうした空しい細胞分裂を繰り返す核家族に比べれば、北澤家は不動産業という家業を得たことで一つの理念が4代目、5代目へと引き継がれていく可能性がある。
お金持ちに
高橋氏の講演テーマは「老後の経済的不安から逃れるために2000万円の自己資金を貯めてからアパート投資を始めよう」というものだった。高齢者が増え若者が減っていくこれからの日本では年金支給額が減少していくことがほぼ確実と高橋氏は言う。 「年金とは別に定期的収入を得てお金持ちになるために誰にでもできる方法は不動産投資しかない」と強調した。不動産投資に際しての注意点は時間の関係で触れなかったが1200人を超える個人投資家を育てた実績がある話だけに強い説得力にあふれていた。
ただ、筆者は多くの高齢者が年金だけにしか頼れない貧しい国になったのはそもそもなぜなのかと考える。かつては経済大国だったこの国が。その答えを知る能力は筆者にはないが、老後の不安を一段と濃くしている要因の一つが寂しい核家族社会にあることは確かだろう
日本では年老いた親は「子供に迷惑を掛けない」ことを美徳にしている。しかし、〝順繰り〟が当然のこの人間社会でそうした考え方・生き方が本当に社会にとっての善なのだろうか。親子ならばもっと本音で言いたいことを言い、助け合い頼り合うほうが健全な社会と言えるのではないか。
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北澤家ではいわば〝艶子イズム〟を柱とし、親子が議論を重ねることで地元に根を張る業者にとって最も大切な地域貢献という理念が引き継がれていく。
国民の大多数を占めるサラリーマン世帯でも、そうした親子間で引き継がれるその家の〝流儀〟のようなものがなければあまりにむなしいのではないか。
言うまでもないが、家族は社会を構成する最小単位で、その家族が弱体化すれば社会も脆弱化し、その基盤を法制度に頼るしかなくなる。しかし法律よりも底辺にある一つひとつの家族が強い絆で結ばれることのほうが社会を支えるより強固な基盤となる。