〝所有から利用へ〟が時代の流れだが、何であれ所有する者がいなければ利用もできない。定期借地権の土地所有者はその多くが旧来の地主層だが、今後は地元の不動産会社などが土地を取得し定期借地として貸し出す手法が期待される。店舗など事業用定借なら幅広い投資家層の参入も可能だ。参加するプレイヤーの多様化で二次市場の流通性が高まれば、定借の新たな発展・拡大につながっていく。
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全国定期借地借家協会(定借協)の第一回講習会(8月5日)では定借の本質「所有と利用の分離」で議論が白熱した。
「新時代の定借パワー」と題して講演した勝木雅治氏(首都圏定借機構理事長)はまず、定期借地権が誕生した背景について、「土地は持っていさえすれば必ず値上がりするという当時の更地至上主義に対する批判が国民の間で強まり、土地にとって大事なのは所有ではなく利用することだという強い世論に押し出されるように登場した」と指摘した。
更に、定期借地権が誕生した1991年は世界的に見るとソビエト連邦が崩壊し冷戦構造が終焉した年でもあるとして、二大陣営による国家の抱え込み競争が終わり、世界経済のグローバル化が始まった年でもあることが重要だとの見解を示した。
つまり、覇権国家による従属国家の抱え込みは〝所有〟の構造であり、経済のグローバル化は国家同士が互いの国益に役立つように〝利用〟し合う構造だから、定期借地権の誕生はそうした世界的大変革をも背景にしたものであるという新たな理論を開陳した。
勝木氏に続き、「30年経過して見えてきた定期借地権の課題」と題して講演した大木祐悟氏(定借協理事長)は、所有と利用について「東京と地方の格差など不動産価格の二極化が一段と進み、所有と利用という価値観が併存する世の中になった」と指摘。そして、「定期借地権が不動産問題のすべてを解決できるわけではないが、問題を解決するための一つの手段として捉えられるようになった。つまり時代が定期借地権の理念に追い付いてきたとも言える」との認識を示した。
所有はプロに
福井県小浜市にある平田不動産の二代目社長で、既に地元で定期借地権事業を数件展開している平田稔氏がこの講習会に参加していた。定借についてこう語る。
「地方で高まっている不動産を所有するリスクはプロである地元の不動産会社が負い、ユーザーは土地を所有しない定期借地権住宅を人生設計や価値観に応じて選べるのが理想だ」
また、「人口が減少している地方でも地元不動産会社には地域の発展をめざす責務がある。一等地がないのであれば一等地を創ればいい」とも話す。例えば小学校そばの土地は子育て世帯にとっては魅力的だし、大きな病院の近くは高齢者にとっての一等地になる可能性がある。
要するに借主にとっての魅力をどう引き出すかが次世代定借事業の成否を決める。大木理事長は借主から見た定借ビジネスの一つにこんな例を挙げた。
「東京圏に住む中堅所得層が地方都市で急増している空き家を安価で購入できるのであれば、土地を定期借地することで週末住宅や大規模災害時の避難先などマルチハビテーションが可能になる」
その場合、一般個人が長期の底地所有者になるのが難しければ、不動産会社が空き家を取得し定期借地権付きで売り出せばいい。
また、地方の活性化には保育園や観光施設・店舗など非住宅系施設の整備も欠かせない。そこで、事業用定期借地権による収益性の高い事業を創出し投資家資金を呼び込むことも、地元不動産会社のアイデア次第で可能になる。こうして定借市場に多様なプレーヤーが参入するようになれば流動性が高まり、定借の新たな発展・拡大につながっていく。