不動産売買に伴う重要事項説明書は売主、買主に分かれる共同仲介の場合、原則、売主側の宅建業者(以下、売主側)が作成する。重要事項説明書の構成は『買主目線×不動産情報』に要約できるので、買主が「勘違いをしていないか」「不利益を被らないか」を把握できる買主目線に近い買主側宅建業者(以下、買主側)が作成しても良いのだが、不動産情報は不動産そのもの以外にも売主しか知り得ない過去から現在までの経緯や、周辺状況といった情報も求められるため、売主にヒアリングしやすい売主側の方が、情報が正確になりやすく、作成するのも効率的で間違いが少なくなる。
また、把握すべき情報の量は「買主目線」よりも「不動産情報」のほうが多くなりがちなので、事前調査が済んでいる売主側が作成した方がスムーズとなる。
ただ、少なからず買主側で作成することがある。主に(1)売主側が重要事項説明書の作成に慣れていない場合、(2)買主側が自社の重要事項説明書の書式で作成したい場合、この2つの場合に「そちらで作成してほしい」「こちらで作成します」になりやすい。他にも売主側が忙しく、買主側が作成した方が早い場合ということもあるだろうが、前の2つと比べてレアケースだ。(1)は担当者よりも宅建業者(会社)が売買に慣れていない、経験が少ない場合に起きやすい。賃貸管理がメイン業務で売買は年1回ある程度だったり、宅建業も兼務する士業の先生が売主側の場合に多いような気がする。一方では(2)買主側が大手で稟議がある会社だと起きやすい。
さて、どちらの場合でも買主側で重要事項説明書を作成するときは、どう漏れなく「不動産情報」を取得するかが重要となる。そのため(1)売主側が持っている書類は全てもらう、(2)法令上の制限等は自分でも調査するのは当然として、(3)告知書(物件状況等確認書、設備表)は事前に取得する、(4)買主目線で不明な点は売主側に確認する、は最低限必須と言えるだろう。
筆者もありがちなのだが、自身での調査は時間が押してできなくて、売主側の情報だけで作成しようと考えることがある。ただ、建築基準法以外の法令や条例などが抜けることも多いので、必ず(2)自身で調査をした方が安心だ。また、売主が持っている不動産情報を引き出したいので、(3)(4)も行った方が良い。「告知書って今必要ですか?」などと売主側に面倒くさがられることが多いが、必ず依頼をしよう。
売主側にとって当たり前のことでも、買主にとっては「それを知っていれば……」ということもあるので注意が必要だ。筆者も台帳で前面道路に下水管が通っていたので、下水道利用と解釈して重要事項説明で説明したところ、売主から「いや、下水管に接続してなく、まだ浄化槽を利用しています」と言われたときは冷や汗が出た。事前に確認をしておけば防げることは、防いでおく方が良いだろう。
【プロフィール】
はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。
2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。