総合

酒場遺産 ▶56 上野アメ横 ほでなす 出会いに満ちた都会のオアシス

 これまで上野アメ横の酒場はいくつか取り上げたが、今回は「ほでなす」である。この小さな立飲み屋は42話で紹介した「魚草」のすぐ近くにあり、この2店は筆者の思うところ、玉石混交のアメ横の中で、酒と食のクオリティーの最も高い立飲み屋である。宮城県栗原市門傳醸造のお嬢さんがオーナーという。

 2022年創業と新しいが、酒と魚の美味い店として、酒場好きの間では既に評判だ。太閤釜神本醸造、門傳純米酒、ほでなす熟成純米生原酒、坤輿特別純米酒、門傳純米酒、ほでなす熟成純米生原酒、坤輿特別純米酒など550~650円ほど。生ビール、ワインもそろえる。食は通常、宮城県産ほや刺、金華シメサバ、三陸産わかめ刺、仙台牛たんメンチ、ほや塩辛、三陸産イカ一夜干し焼、笹かま炙り焼なと400~650円、生牡蠣時価などで、季節ごとのメニューが加わる。腹が減ったら、炙りたらことちょいご飯、すじことちょいご飯、海鮮丼など、小さな店ながら豊富だ。

 先日仕事の帰りがけ、ふらりと寄ったが、門伝純米燗酒、ほでなす純米原酒、海鞘酢、海鞘刺しはどれも格別だった。コの字型に並べられたカウンターでは若者たちが和気あいあいと飲んでいる。グループかと思ったら、皆この店で知り合ったという。隣で飲んでいた人は岐阜から上京し料理人を目指したが、挫折し小売の職についたという。いつもトイプードルをショルダーバッグに入れているご同輩の常連は「犬を連れているとなかなか入れる店がないんだよね」と言う。そんな出会いに満ちた場だ。「ほでなす」とは宮城弁で愚か者の意味という。夜な夜な酒場に集う者たちには最高の褒め言葉だ。(似内志朗)