9月10日に開かれた第41回不動産女性塾は〝終活〟と相続がテーマとなった。終活については司法書士で一人暮らしの高齢者サポートを20年以上続けてきた太田垣章子氏が、相続については累計1万5000人からの相談実績をもつ(株)夢相続社長の曽根惠子氏がそれぞれ講演した。
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太田垣氏は言う。
「誰にでも死は訪れる。死の前には病気になって寝たきりになったり、認知症になれば正気を失う。だから最後は物事を自分で決められなくなる。そのとき誰に自分の代わりに意思決定してもらうのか、その託す相手を元気なうちに決めておくのが終活だ」。
しかし、実際は終活を後ろ向きに捉え、何も決めないまま病魔に襲われて意思表明ができず家族を悩ませてしまう人がいかに多いことかと嘆く。
この日、太田垣氏の講演にはなにか大きな決意を感じさせる迫力があった。そのわけは講演の最後で知ることになる。
同氏はこれまでに3000件以上の賃貸トラブルを解決し家主だけでなく、例えば退去を迫られ住む場所を見つけられずに困っている高齢者などのサポートも行ってきた。そして、最期は誰もが〝お一人様〟になる覚悟の重要性を訴え続けてきた。
「生涯未婚者や離婚者だけでなく、夫婦であってもどちらかが認知症になればその時点で一人になるということに多くの人たちが気付いていない。妻が認知症になり、介護中に自分が倒れたら誰が妻の世話をし、自分の葬式を誰が出すのかという切実な問題を抱えているのが核家族社会の現実だ」と警告する。
そして今年春には自分の司法書士事務所を手離したことを明かした。30歳の時に乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとしての苦しい生活から脱却しようと人に勧められた司法書士試験に挑戦して見事合格。苦労の末18年前に開設した事務所だった。
「少子高齢化はこれからが本番で、私がしてきた高齢者を対象にしたコンサルという仕事はこれからますます重要になる。これまで以上にクライアントに寄り添ったコンサルを行うためにフリーの身になる覚悟をした。私も現在59歳。いつ体が動かなくなるか分からない。だからこれまで培ってきたノウハウのすべてを後続の若い司法書士たちに伝えていきたい」と語り講演を終えた。
今後は、今年5月に設立した合同会社あなたの隣り代表社員として仕事をしていくという。
鍵は事前対策
続いて登壇した曽根氏は「相続は地主や一部富裕層の話というイメージもあるが、遺産の額に関わらず事前に対策をしておかないと悲惨な家族間の争いになりかねない」と警告する。近年の空き家の増加も事前にその処分や活用を家族で話し合っておかなかったために放置されている結果だとも言える。
事前の対策と共に「相続財産の大半が不動産となる我が国では不動産の実務が分かっている人に相談することが肝要」とも指摘した。
しかし現実は相続額が大きい人ほど弁護士、税理士、信託銀行などに相談するケースが多いという。だが彼らは相続発生後の仕事が主であり、不動産のプロとも限らない。結局、的確な相続対策ができるのは不動産の専門家であり、普段の実務経験を生かせば夢相続認定の「相続実務士®」になれると強調した。
両講演を聴いて思ったことは、高齢者サポートも相続対策も個々の相談内容は実に様々だろうから、多様な実績を積み重ねることこそ信頼されるコンサルタントになる唯一の道になるということだ。
講演終了後は参加者が各テーブルに分かれて意見交換を行い、その結果を報告した。講師が〝私の仕事の流儀〟を語ったときには講演を聞くだけではなく、みんなで感想を述べ合い、自らの考え方を発表するところはいかにも〝不動産女性塾〟である。