「浅草地下商店街」(1955年設置)の「福ちゃん」。コンクリート打放しの天井や壁、電線やパイプもむき出し、各所から漏水もしている。地下街に入ると湿気た匂いがこもってっており、訪れる人もそう多くはない。昭和初期に東京の中心地だった浅草と上野の間を結んだ日本初の地下鉄「東京地下鉄道(後の帝都高速度交通営団、現東京メトロ)」ができたのが1927(昭和2)年、現在の銀座線沿いに神田須田町地下鉄ストア(31年)、三原橋地下街(52年)が設けられたが、いずれもその後閉鎖されたため、この浅草地下商店街が現存する日本最古の地下街となった。現在でもタイ料理・ベトナム料理・立ち食い蕎麦屋・雑貨・バー・珈琲屋・ビデオ屋など(かつては朝鮮出身の整体師もいた)20店舗ほどが営業しているが「福ちゃん」は64年からの商店街一の老舗で、銀座線改札からすぐの位置にある。「サッポロビール 浅草やきそば 福ちゃん」という大きな看板がかかり、その下では通路にはみ出た6人掛けの粗末なテーブル、中に10席ほどのカウンター席。やきそばに具がほとんど入っていないが、ともかくも質素で安い。サッポロ黒ラベル生450円、サッポロラガー瓶500円、ハイボール400円、ホッピーセット450円、日本酒400円など。食事は鉄板焼きそば400円・大盛500円、カレーソース焼きそば500円、牛筋やきそば550円、カレーライス500円などの他に一品ものもある。
昨年末に公開された巨匠ヴィムヴェンダース監督・役所広司主演の映画「PERFECT DAYS」で、清掃員として働く主人公の平山(役所広司)が、仕事の後に毎日のように立ち寄る酒場として紹介され「福ちゃん」に日があたった。第76回カンヌ国際映画祭で役所が日本人俳優として2人目となる主演男優賞を獲得。人生の日々を淡々と過ごす平山の生き方に共感と、羨望を感じる世界の人々を想いつつ、ディープな酒場でビールを飲むのも悪くない。 (似内志朗)