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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇147 住文化乏しい日本 物質的豊かさと混同 〝真の幸福観〟見失う

 我が国に住文化が乏しいのは住まいを楽しむ人たちがまだまだ少ないからだろう。住文化とは住まいを楽しむことである。

 では、住まいを楽しむとはどういうことか。タワーマンションの上層階から夜景を眺めること――東京でいえばスカイツリーやレインボーブリッジの照明を楽しむことだろうか。それとも友人らを招いてパーティーを開くことだろうか。

 それらも楽しいことには違いないが、「住まいを楽しむ」というよりも住まいという場を借りているだけのように思われる。そうではなく、住まいを自分の感性にマッチした〝自分の居場所〟に変えていく、あるいは創造すること、それが住まいを楽しむということではないか。

 その意味ではピカピカの新築マンションよりも、古い中古住宅のほうが向いているかもしれない。古ければ古いほど自分の好みで自由に手を加えることができるからだ。

 もちろん、古ければ古いほどとはいっても耐震性や断熱性などの基本性能は満たしたうえでのことである。昨今気になるのは、住まいについて、そうした性能の高さばかりを強調する宣伝が多いことだ。住まいにとって最も大切なことは、自分や家族の感性にマッチした〝居場所〟になっていることだと思う。

 やや気取った言い方をすれば、そこにいると「家族が家族に、自分が自分に優しくなれる場所」ということだ。

 では家族が家族に、自分が自分に優しくなれるとはどういうことだろうか。それは誰もがそこでは〝自然体〟になれるということ。理屈を捨て心が解放されるということ。つまり〝心が澄む〟場所が自分の居場所であり、そうした居場所を創ることが住まいを楽しむということである。

防音リフォーム

 リブランは今年9月、「ミュージション(楽器演奏可能な防音マンション)」シリーズに「防音リフォームサービス」を加え、一般の既存住宅でもミュージションに改造することができるサービスを開始した。

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 今野孝胤常務は「ある時、賃貸部門のスタッフから、『ミュージションを退去された入居者の中には、結婚などのライフスタイルの変化に伴って新しく住宅を購入されている方が多くいる。退去された方の住宅購入と防音室の施工をお手伝いできれば、その方の充実した音楽人生に長く寄り添うことができる』と聞いたのがきっかけで新事業の着想を得た」という。

 つまり、結婚や出産などライフスタイルの変化でやむなくミュージションを退去しなければならなくなった場合でも、転出先の新たな住まいに防音室を設け〝自分の居場所〟を確保し、音楽人生を楽しみ続けたいという人たちが増えているということだ。

 同社宣伝部の戸口木綿子氏によると、「中古&リノベーション」というワンストップサービスを提供している事業部「てまひま不動産」では、顧客が中古住宅を購入するときから防音工事が可能な物件選びを手伝うようにしているのだという。既に数件実績がある。

 リブランの渡邊裕介社長は「ミュージション」と「てまひま不動産」事業を同社の2本柱としている。それは創業者の「不動産業は人間産業」という経営理念を堅持しているからだが、そこには人間と現代社会に対する深い洞察力、さらに〝てまひま〟を厭わない覚悟がある。

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 ところで、日本が住まいを楽しむ文化に乏しいのはなぜだろうか。

 それは日本人が戦後の高度経済成長の過程で経済的・物質的豊かさを幸福と同一視してしまったことに起因する。だからこの世で最も大きな買い物である住まいを購入すれば、人生で最大の幸福を手にすることができると思い込み、真の幸福とは何かを見失ってしまっていることにさえ気付かずにいる。まして、住まいと幸福の関係など考えたこともないのである。