起きてはならないことが起きてしまった。基礎杭データ改ざんによる建設工事。故意によるものとしたなら、怒りを通り越した感情が沸き起こる。「安全・安心」の確保を生命線とする建設業界、そして住宅・不動産業界にとって、憂慮すべき事案だ。
見えない場所こそ
05年に着工したマンションだという。首都圏の年間供給ボリュームが8万戸台の時期だ。近年の約2倍。慢性的な多忙さゆえか、それとも、いつでも受注できていた慢心さゆえのことか。あろうことか、建物を支える根幹部分で手抜き工事が生じた。パンフレットやマンションのモデルルームでも、建物の安全性を伝えるべく「しっかりと杭で支えられている」ことを詳しく説明するシーンはよく見受けられる。一般消費者は、それを信じて購入するしかない。まさかその部分に手抜きがあるとは、考えもつかない。「見えない場所だからこそ、しっかりとした仕事をする」ことは、職人としての矜持のはずだ。日本が誇る高い技術力は、その真面目さ・勤勉さが基礎にあることを、今一度自覚すべきだ。
今回の事件を聞いて思い起こされるのが「姉歯事件」。複数のマンションで構造設計の耐震偽装問題が発覚した事件だが、それが公となったのが05年11月。それ以降、国も再発防止と安全性の担保のために、建築確認制度の強化や保険制度を創設するなどした。今回の基礎杭データ改ざん事件により、再び様々な方面で更なる規制強化をすべきという議論が沸き起こるだろう。当然、それも必要なことだ。人の命を守る「住まい」に関する問題だけに、不正・怠慢を許してはならない。ただ、規制強化ですべてが解決するわけではない。住宅・不動産業に携わる一人ひとりの責任と自覚を更に強化することこそ重要だ。会社は、企画する者、設計する者、施工する者、販売する者、管理する者に対し、改めて「住まい」という重要財産に携わっていることの認識を教えるべきだ。
誠意ある対応を
事業主である三井不動産レジデンシャルの責任も大きい。住民に対し、可能な限り誠意ある対応を心掛けなければならないが、トップ自ら迅速に行動したことは評価できる。今後も住民のことを最優先に考えた対応を行うべきだが、懸念されるのは、マンション市場全体への影響だ。価格の高止まりにより、好調だった売れ行きも陰りが見え始めてきた時期だ。当面は、マンション購入検討者から厳しい目で見られることだろう。言い訳をすることなく、信用・信頼の回復のために、業界全体がその役割を認識しながら一歩一歩取り組んでいくしかない。