リクルート住まいカンパニーはこのほど、首都圏における19年度賃貸契約者動向調査を発表した。19年度の調査結果を踏まえ、コロナ禍の賃貸市況、今後不動産事業者が注力すべき点について同社「SUUMO(スーモ)」編集長の池本洋一氏=写真=に聞いた。
――19年度の特徴は。
不動産会社店舗への訪問数は平均1.5店舗で過去最少だった18年度と同等。部屋探しの際の物件見学数は平均2.7件で過去最少を更新するなど、ウェブサイトで物件を取捨選択してから訪問するという昨今の消費者トレンドを示す結果となった。
一貫して減少傾向だった敷金は平均1.0カ月で、前年度から0.1カ月分上昇。増加傾向にあった敷金0カ月の物件の契約割合も、19年度は25.5%とやや減少した。礼金は3年連続で平均0.7カ月分となるなど、昨今の入居率の改善を受けて敷金礼金ゼロ物件の契約割合の増加が一服した。総括すると、「入居率が高く、オーナーとしては堅実な1年」。新築賃貸の減少、分譲マンションの高止まりなどが背景にある。
――注目の住宅設備は。
満足度の高い設備では、「24時間出せるゴミ置き場」が4年連続1位。2位は「無料インターネット完備」となった。中でも「スマートキー」は一人暮らし世帯の家賃許容上昇度がプラス2200円と高く、利用者全体の満足度も年々高まっている(18年度比プラス11.9ポイント)。施錠の手間を省く利便性やスマートフォンを中心としたライフスタイルの変化が背景にある。
設備追加に対していくらの賃料上昇を認めるかという「賃料上昇許容額」では独立洗面台やシステムキッチン、エアコン付きなどの項目で学生の金額が突出している。これは若年層の実家の標準仕様であり、一人暮らしの際も当然のように望むものを指している。満足度の高い設備は、オーナーおよび管理会社が入居者への差別化、入退去率の改善に有効な手立てとなる。不動産オーナーは初めての一人暮らし層あるいは住み替え層を狙うのかターゲティングした上で、ニーズに応える再投資をしていく必要がある。
――コロナ禍の変化は。
「スーモ」でも、20年3月は法人、学生の契約見送りが顕著だったが、外出自粛要請解除後、法人需要は戻った。賃貸市場では(1)オンライン接客対応、(2)管理会社のクレーム対応、(3)ワークスペース需要などの変化が見られた。例えば(2)(3)では在宅勤務が推進された中で上下階や隣住居との騒音トラブルが問題となり、管理会社へのクレームが増加した。断熱、遮音効果もある内窓の性能向上は費用対効果がよい対策例だ。また、共同住宅の空室を共用のワークスペースとして貸し出す取り組みも出てきた。テレワークは今後も一定の浸透が見込まれるため、住まい探しの選択肢は増えるはずだ。
――注力すべき対応は。
秋以降も転勤需要はあると見るが、企業の上半期の業績悪化を受けて給与等への影響が予測される。管理会社目線では家賃減額への対応が考えられるが、個社ごとではなく〝賃貸住宅はセーフティネット〟という観点から業界を挙げてBCPガイドラインの作成を進めることが望ましい。他方、仲介会社目線では積極的な住み替えが進むとは予測しにくい。例えば、従来は駅距離10分、築20年以内などを売りとしたはずだが、あえて「築古だがリフォーム済み」や「徒歩16分物件」のように家賃の金額帯が下がるエリアを提案の選択肢に加えるなど、〝生活防衛するための賃貸〟という視点も持つべきだ。
【調査概要】 同調査は、賃貸物件契約者の行動実態やニーズの把握を目的にインターネットで20年6月に実施。全国の18歳以上の男女を対象に、19年度に賃貸選びに関与した人を割り出した(ウェイトバック補正集計後1303人)。調査時点の意識・意向を聴取した設問については、コロナ禍の影響を受けている可能性がある。