三ノ輪から都営荒川線に乗った。庚申塚停留場(豊島区西巣鴨)まで走り、以前から気になっていた、駅のホームに面している酒場「御代家」を初めて訪れた。ホームから入る店は珍しい(切符なしで入れる)。外からはひっそりとした様子だったが、扉を開けると中は意外にも広く、ほぼ満席。入って左側のカウンター席と奥のテーブル席で20席くらいだろうか。カウンター隅の席に座り、宝剣純米辛口と鶏レバ刺しを頼む。レバ刺しはレバとハツが盛られ、胡麻油塩を少し付けて食べたが、新鮮で絶品だった。店主の腕は確かだ。日曜の夜だからだろう、近所の家族連れや夫婦客が多いようだ。
お薦めの日本酒は、宮城「綿屋」特別純米、埼玉「秩父錦」純米霞無濾過生原酒、同本醸造しぼりたて生原酒、長野「亀の海」純米吟醸、福井「白岳仙」純米吟醸で1合700~900円。料理は毎日変えているようで、訪れた如月九日(2月9日)メニューの「本日の刺身」は、まぐろハラミ、鰺、サーモン、北寄貝、とりレバ刺が650~800円、「本日の炭火焼き」はぶりカマ、穴子塩焼き、牛みすじステーキ串、とろなす、するめ醤油づけ、栃尾あげ納豆はさみ。他に、ぶり照り焼き、とりレバ胡麻油炒め、牡蛎胡麻油づけ、車麩と鶏肉の玉子とじなど、手頃な値段でいただくことができる。創業26年、御代家という店名は店主の姓で福島の名字という。自然素材でつくられた店内は心地よい。
都電荒川線は、三ノ輪橋停留場(東京都荒川区)から早稲田停留場(新宿区)までを結ぶ東京都電車(都電)の路面電車で、最近は「東京さくらトラム」という愛称がつけられている。1930年3月30日に全線開通し、12.2キロの路線に30の停留場がある。東京市時代からの歴史を持つ都電路線が次々と廃止された後も、ただ一つ残る路面電車だ。御代家のカウンターで美味しい酒を飲みつつ耳をすませば、都電のゴトゴトという振動が聞こえてくる。遠い町を旅している気持ちになる。(似内志朗)