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社説 不動産引取サービスが台頭 リスクの懸念大、適正化で商機に

 不動産取引の中でも近年、「引取サービス」が存在感を増している。売買仲介や買い取り(再販)ではなく、民間事業者が有償で不動産を〝引き取る〟サービスだ。構造としては、2023年に開始した「相続土地国庫帰属制度」の民間事業版と言えよう。「金銭を支払ってでも、不動産を手放したい」という所有者の増加を背景に、同制度で「土地は手放せるもの」という認識が広がったことや、24年の「相続登記義務化」により、こうした制度や事業への需要は今後も拡大が見込まれる。

 所有者不明土地(不明地)や相続不動産による負担が問題視されるようになって久しいが、そうした課題はニーズを生み、新規事業にもつながる。「引取サービス」も、閉塞感の否めない地方圏の不動産マーケットにおいて、不動産の所有者と事業者双方の課題解決手段の一つとなり得るものだ。持続的な地域と市場、更に国土管理・利用の視点からも、サービスの高度化や成熟に期待したい。

 とはいえ現状、「引取サービス」に対する懸念は大きい。宅地建物取引業法の規制の対象外となる部分があり、例えば料金設定の適正性を担保する仕組みがないため、法外な料金でも所有者には判断が難しい。そのまま市場で流通可能な物件を黙って有償で引き取るケースや、引き取った後の不動産の管理不全による外部不経済発生といったリスクも指摘される。引き取り料金だけ受け取って所有権の移転すら行わない、というケースも確認されており、これはもはや詐欺の領域であり言語道断だ。

 そうした実態を踏まえれば、やはり国や自治体による一定の規制など、悪質な事業者を抑止・排除するための明確なルール整備が求められる。行政による民間事業の過度な締め付けは歓迎できるものではないが、消費者保護を始め、地域社会への悪影響や不明地の更なる増加を防止するため、〝先回り〟での対応も必要と言わざるを得ない。国土交通省を始め、消費者庁や警察機構など、関係する行政機関は毅然とした態度で監督に当たるべきであろう。

 そしてそれ以上に、事業者自身の自主規制が急務だ。既に事業者団体も設立され、ガイドライン制定等へ向けて動いていることは幸いだが、まずは個々の事業者が自身を律することを強く求めたい。

 そして、一般的な宅建事業者も無関係ではない。「引取サービス」利用の動機の一つには、「相続トラブルを避けるための事前対応」もある。自らそうしたサービスを提供せずとも、日頃から地域の土地オーナーとの関係を構築し、相続検討の際には不動産コンサルティングの一環として、国庫帰属制度や適正な「引取サービス」業者を選択肢の一つとして紹介できることが望ましい。顧客からの信頼度向上や地域活力の維持、そして社会的責任という側面からも、新たなニーズへの理解と対応が求められている。