「いまこそ前を向いて進もう」企画第2部。今回は国際都市で、環境先進都市でもある横浜市の林文子市長と、横浜市中区に本拠を置く中堅ディベロッパー・リスト社長の北見尚之氏。テーマは、「環境配慮のまちづくりと地域密着型ディベロッパーの役割」です。東日本大震災を踏まえた耐震化などの震災対策や、将来の人口減少社会に対応した街の活性化策などを探ります。
林市長 横浜市は昨年12月、環境未来都市として選定されましたが、以前から環境モデル都市として、世界に先駆けて取り組んだ、ごみ削減の「G30」事業など、非常に長い経験と実績があります。
これまで環境モデル都市をやって、ついに未来都市ということになりました。環境未来都市は、単に低炭素都市を構築するだけではなく、超高齢社会への対応も含まれています。日本の人口(現在約1億2800万人)は、50年後に8674万人に減ると言われ、横浜市の人口も2020年を頂点にして減少する見込みです。
そのため、今後の課題としては、少子高齢化の中で都市としての活力をどう持続させるか。もう1つは、市民が心豊かに、幸せに生活できる都市とは何かということが挙げられます。その答えの1つが私は、「文化芸術都市」になることだと思っています。これが、横浜が目指すべき都市像、あるべき姿だと思います。
都市開発を進める場合、そこに暮らす人の生活意識が非常に大事です。北見社長は、ディベロッパー業務だけでなく、賃貸事業も手掛けられ、人の暮らしがよく分かっておられると思います。そういう企業が地元にあるのは大きな財産ですし、頼もしい。また、リストさんには日産グランド跡地で環境対応住宅のモデル事業に取り組んでいただいてております。
■日産グランド跡地開発
北見社長 大震災前から環境対応住宅への取り組みに力を入れていて、当社で取り扱うすべての分譲住宅に太陽光発電システムを搭載しようと決めていたところ、たまたま大震災が発生して、結果的にヒットしました。環境配慮住宅の推進ということで、マンションについても必ず、共用部分の電力は太陽光発電で賄えるように、という考え方でソーラーパネルを導入しています。現在、日産の野球練習場だった土地で開発を進めている「ダイヤモンドパーク」では、環境配慮型の戸建て住宅127棟を建設する予定です。ここでは電気自動車(日産「リーフ」)を利用した蓄電池システムを構築しようと取り組んでいて、今年の夏から販売を開始します。
環境対応とともに、我々がもう1つ気にしているのが人口です。市長のお話にもありましたが、横浜市の人口は2020年をピークに減り始め、65歳以上の高齢者の割合が相当高くなります。そのとき、市内にはケアハウスも今以上に必要になるでしょうし、何より、街の活性化のためには人口を増やさなければならないでしょう。少子高齢化が進んだとしても、人が集まるような、環境のいい街づくりを進めなければならないし、それが我々に与えられた課題だと思います。
■大震災を踏まえた耐震化対応など
林市長 自然災害、天災は避けられません。すべてを防ぐことはできないので、減災の考え方で取り組んでいます。まず、喫緊の課題としては公共建築物の耐震化です。市立小中学校は地域防災拠点であり、避難場所にもなっています。避難所となる体育館はすでに完了し、他の学校施設は遅くても2015年度までにすべて終了します。次に区役所、区庁舎。こちらも地域の災害対策本部となる建物です。南区、港南区、金沢区は2015年度までに建て替えが完了するように事業に着手しました。
あとは民間建築物の耐震化です。補助には一定の要件はありますが、2013年度まで補助制度を拡充しました。各方面から「自宅の耐震化を」と周知を図っても、なかなか進まない。ぜひアピールしていただきたいと思います。対象は、1981年5月以前の基準で建てられた木造住宅や分譲マンション、大規模な店舗・事務所などです。特に木造住宅については、耐震診断を無料で実施。耐震改修を行う場合は、225万円を限度額に補助する仕組みです。
震災以降、建物の耐震性に関する市民の関心は高くなり、2011年度の耐震診断、耐震改修申請は前年度の約3倍まで増え、過去最高水準になりましたが、もっと推進しなくてはならないのです。
■地盤調査と地盤保証
北見社長 我々がいま取り組んでいるのは地盤調査と地盤保証です。今回の震災を踏まえたもので、まず地盤調査を行い、よい地盤のところに建設する、地盤がよくない場合は、杭を打ち込むなどの改修工事を行い、保証する形で進めています。建築物についても一戸建ては、以前は木造在来工法を採用していましたが、現在は構造的により地震に強いツーバイフォー工法に切り換えています。マンションでは、浄水装置や非常用トイレなどの災害グッズ、非常用食料などを、必ず共用施設として設置しています。
事業を展開する中でこれは必要だと思う制度は、太陽光発電システムなどの分譲事業者に対する補助金制度です。現在の制度は、個人が申請するもので、我々業者が設置する場合は対象になりません。事業者が導入、設置する場合でも、最終的には住宅需要者のものとなるわけですから、補助金が出る制度があってもいいのではないか。これは消費者が住宅を買いやすくなる制度でもあり、ぜひ検討していただければと思います。
林市長 よいご意見をいただきました。太陽光発電の普及がより促進されるかもしれません。
北見社長 個人で後付けするような場合、屋根形状や設計上の理由で、効果的な設備が設置できないケースも出てきます。そのため、我々は最初からすべてを搭載するという考え方で商品化をしています。制度ができることで、供給するディベロッパー側も、いままで以上に考えて商品設計に取り組むようになると思います。同時に、太陽光発電の普及率も上がり、環境対応効果も上がるのではないかと思います。 (2面に続く)