今、住宅・不動産業にとって、円安でインバウンドの復活やホテル・商業施設の需要の盛り上がりへの期待、不動産市場への海外からの資金流入といったプラスの動きがある一方、景気後退や金利上昇リスクの高まりにより、好調なマンション販売への影響やオフィスの空室率上昇への懸念など、先行きの不安要素も顕在化し始めた。将来の見通しが難しい状況の中で、アフターコロナを視野に入れた〝半歩先をいく〟勝ち残る住宅・不動産のニューノーマルを、様々な事例から読み解く。
「改正建築物省エネ法」が6月13日に国会で成立、同17日に公布された。2025年度までに、すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適用を義務付けると共に、ZEH・ZEB水準の省エネ性能が確保された住宅・建築物の普及拡大を図る。トップランナー制度の拡充や誘導基準の強化等を進めながら、木材利用の促進に向けた規制の合理化を図るというものだ。政府は「30年度に温室効果ガス13年度比46%削減」を掲げており、同改正法は脱炭素社会実現への第一歩となる。
同改正法をめぐっては当初、国会への〝提出見送り〟も懸念されたが、原油価格等の高騰対策が急務となる中、住宅の省エネ化促進など経済構造の転換が必要となっていることなどを受け、国会に提出された経緯がある。確かにロシアによるウクライナ侵攻はエネルギーの安定供給問題や、省エネ対応をより身近なものとした印象だ。気候変動対策を特集した22年版の「国土交通白書」においても、人間がもたらす温室効果ガスの排出等が気候変動要因である点を指摘。他方、家庭部門ではZEHや高効率機器などの普及によりエネルギー消費量が減少し、CO2排出量は減少傾向にある点などに着目。住まいやまちづくりなど、国土交通分野における脱炭素化に向けた一層の取り組み、地域住民の生活の質と環境負荷の軽減の両立の重要性を示している。
なお、同改正法には、国民に対する制度の周知や中小工務店への支援の充実、大手事業者が供給する建築物の一層の省エネ性能向上促進に向けた取り組みを求める国会の附帯決議が付された。政府には、補助や融資、税制など十分な支援に加え、消費者や事業者を取り組みの当事者とさせる強いリーダーシップと継続的なフォローアップが求められる。
省庁横断、施策の具体化へ
省庁の垣根を越えた様々な取り組みも進んでいる。国土交通省、経済産業省、農林水産省、環境省合同による「再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会」では、地域の信頼獲得を前提に、地域と共生した再エネ導入拡大の施策の方向性を議論。7月28日の第7回検討会ではとりまとめの提言案と、各省が取り組むアクション集が示された。
また、国交省と経産省が進める省エネ基準の見直しに関しては、同改正法で住宅トップランナー制度の対象に追加された分譲マンションの基準案として、「目標年度26年度、BEI=0.8、強化外皮基準に適合」の方向性を提示。更に「共同住宅等の外皮性能に係るZEH水準を上回る等級の新設」として、今年10月に施行される戸建ての基準同様、共同住宅等における断熱等級6、7を定める方向だ。
共同住宅の上位等級については、参加委員から「非常に厳しい水準」との指摘もなされたが、事務局では「中長期的に達成可能な水準という観点から設定。民間事業者による新しい技術や製品の開発に期待する」とし、省エネ基準の段階的引き上げを見据え、より高い省エネ性能の確保を図る狙いを示した。どちらの基準案も今後パブコメを実施し、今秋の公布、来春の施行を目指している。
国交省も施策の変革に挑む姿勢だ。7月26日の閣議後会見で、斉藤鉄夫国交大臣が「ハイブリッドダム(仮称)」の構想を発表した。これは最新の気象予測技術や土木技術を活用し、天候に応じてダムの貯水量を柔軟にする運用の高度化、ダム改造等を推進することで、治水機能の確保・向上とカーボンニュートラル(水力発電)を両立すると共に、ダムが立地する地域の振興に官民連携で乗り出すというもの。同省では「民間の再エネ事業への関心の高まりに加え、治水管理者の我々も予測精度の向上等により、再エネへの取り組みも併せて検討するステージにある」とし、新規参入を含めた多様な民間企業との連携を示唆。今秋に予定されるサウンディング(官民対話)に参加する民間事業者等を募集している。再エネと合わせた地域振興等に関心のある不動産事業者にとって、新たな商機となりうるだろうか。
都は「HTT戦略」推進
東京都は6月22日に、住宅事業者団体、リフォーム事業者団体、不動産・建築士団体など約40の住宅関係団体が参画する「東京都 省エネ・再エネ住宅推進プラットフォーム(PF)」を設立した。同PF設立に当たり、小池百合子東京都知事は、「都内ではCO2排出量の3割を家庭部門が占める。脱炭素化推進のポイントは、電力を減らす(H)、創る(T)、蓄める(T)」とし、HTTの観点で、省エネ・再エネ住宅を普及促進していく考えを表明。目下のエネルギー対策と50年の「ゼロエミッション東京」の実現を目指す。
7月中旬には、同PF会員団体向けに、普及啓発、相談窓口等設置、技術力向上の経費の3分の2を補助する事業を開始。また、住宅の所有者等を対象に、既存住宅の省エネ診断、省エネ設計、省エネ改修に対する補助も打ち出した。窓・ドアや躯体の断熱化を図り、併せて高効率な照明・給湯設備等を備えた住宅にすることは、省エネ性能の向上および光熱費の削減に加え、快適性向上につながるという観点からも都は、個別の住宅のリフォームやマンションの大規模修繕等の際の活用を呼び掛ける。都では新築への太陽光発電設備設置義務化に向けた方向性を示すが、上乗せコストをどうクリアしていくのかなど課題も指摘されている。先進自治体として、省エネ、再エネをリードできるか試金石となる。
コンサル力で最適解を
脱炭素化社会の実現には、既存ストックの省エネ性能向上も不可欠だ。特に住宅販売価格が高騰し、着工戸数も減少していく中ではその重要性が増す。7月26日の「リノベ工務店サミット」では、有識者が持ち家や実家の活用を含めた中古戸建ての性能向上について議論。既存住宅においても50年にZEHレベルを掲げる国の方向性を踏まえ、事業者側の変革の重要性を確認した。リノベーション協議会の内山博文会長は、経産省の事業再構築補助金の活用なども挙げ、「性能向上の分野では今が参入のチャンス。請負となる工務店だが、入り口の不動産取引から関与していくことで、税制面など顧客に価格以外の価値を提案できる」と呼び掛ける。国や地方自治体による支援を引き出し、顧客の最適解を提案するコンサルティング力の向上を商機獲得の切り札に挙げた。