前号では、空き家を活用した親子の近居推進政策の必要性を訴えた。今号ではその実現可能性を考える。
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総務省の23年住宅・土地統計調査によれば、我が国の住宅ストック総数は6502万戸で、空き家の数も900万戸と過去最多を更新し続けている。空き家のうち賃貸・売却用などを除いたいわゆる個人所有の〝利用目的なし空き家〟は385万戸で、こちらも過去最多となっている。
我が国の持ち家率はおおむね60%なのでその数は約3900万戸(6502万戸×0.6)と見られるから、目的なし空き家の全持ち家ストックに対する比率は約1割となる。筆者はUR(旧・日本住宅公団)が分譲した首都圏郊外の戸建て分譲地に住んでいるが1割という数値は実感値とほぼ一致する。
子世帯が親の近くに住むとして、10軒に1軒の空き家があるということは〝向こう三軒両隣・裏手4軒〟のどこかに住める計算だ。
自治体にとっては定住人口の確保につながるし、国にとっても少子化対策の大きなバックボーンになる。なぜなら、若い夫婦にとって親が近くにいれば安心して出産・子育てができる。いまや学童保育が必須の共働き夫婦にとっては、子供が高学年になるまでは何かと助けてもらうことも多いのではないか。
同じ地域に元気な親と子世帯、そしていずれ孫世帯が住むようになれば我が国の住宅地の風景は一変する。人生100年時代、子供や孫の姿を近くに見ながら生きがいをもって生きることができれば健康寿命も伸びるから、国の医療費削減というおまけまでついてくる。
夢物語か
子供が親世帯と近居する障害は何か。実家が首都圏郊外にある場合を想定してみよう。何かと忙しい共働き夫婦にとっては少しでも都心寄りに住んで通勤時間を短くしたいだろうが、それは実家が余程交通不便な場所にある場合を除けば、比較考量の問題になる。つまり仮に20分短縮できたとしても、郊外の空き家に安い家賃で住んだ場合の経済的メリットとの比較である。更に言えば今後はテレワークが一段と浸透して自宅で仕事をする時間やそういう職種の人が増えていく。
要はいったん親世帯から離れて暮らし始めた子世帯が親の家近くに引っ越してくることは難しいが、当初から近居することはさほど難しい話ではないということだ。あとは公的支援で都心近くに住むのと比べ家賃(または購入価格)をどれほど低くできるかという問題だ。
もう一点は空き家がいつでも購入または借りることができるように維持管理が行き届いた市場になっていなければならない。現状では活発といえない地元不動産会社による空き家管理ビジネスへの積極関与が課題となる。
親から子、そして孫へと何世代にも渡って引き継がれてゆく持続可能な街づくり――その夢物語にも思える施策を実現する好機が今出現しつつある。住宅地の空き家率が約1割になろうとしている現実である。空き家率が3割になると自治体が財政破綻すると言われるが、そこに達する前に親子3世代の近居促進策を推進していけば、空き家発生を抑制できるだけでなく、地域の衰退を止め豊かな人間関係に満ちた再生が可能になる。
なぜなら、親子3世代が同じ地域に住み続ければ町に見知った顔が増え地域に対する真の愛着が芽生えてくる。自分が住む町に愛着を持たずして地域を活性化することはできない。「住めば都」という諺があるが、それは祖父の代からの人脈があればこそである。
直木賞作家だった故常盤新平氏は散歩の名人でもあったがこういう言葉を残している。「政治談議ができる床屋と、老舗のそば屋と、旨いコーヒーを飲ませる喫茶店がなければ町ではない」
三代続く店に三代続けて通う常連がいてこそ〝愛すべき町〟ということだろう。