不動産取引で9月末に集中するのが残代金決済と引き渡し。スムーズに進めるために顧客が何をすれば良いか分かるように決済日時や場所、必要書類の他に清算書を作成し事前に案内をしておくのが基本だ。清算書の目的は「この金額を受け取れば(振り込めば)良い」とお金の流れが見えるようにし、顧客の理解を促すことだ。
構成としては、(1)固定資産税等の公租公課、賃料、地代等の清算金(以下、清算金)、(2)現金授受もしくは振り込みかの金種、(3)振込手数料とその負担者、(4)諸経費の一覧と各金額、これら4点を明示しつつ、(5)残代金から各清算金を相殺するといったお金の流れ、(6)売・主買主の受領額と振込額、(7)諸経費の支払方法、(8)各振込先の金融機関の口座番号等、までを記載していれば売主、買主とも十分理解できるものになる。
筆者の新人の頃は、(1)清算金の案内までしか顧客に案内していなかったが、それだけでは「なぜこの金額を振り込むのですか」「残代金は2000万円のはずなのに2010万円もいただくのですか」などと顧客が決済時に混乱することが多かった。私たちだけが理解し案内しても、顧客が分かっていなければ「よく分からない金額を振り込まされた」と不安と不信を招く。それでは仲介が成功したと言い難い。そこで前記(1)から(8)までを記載した清算書をもって事前に顧客に説明をしておくのがベストだと思い、そうすることにした。結果は良好。その後は顧客も各清算金とお金の流れが見えるので、不安や不信がなく決済時はスムーズに進むようになった。今まで(1)清算金しか案内して来なかった方は是非~(8)までの記載と案内を試して見てほしい。
なお、共同仲介の場合は、(1)清算金は主に売主側仲介会社が作成するが、売主・買主側を問わず当日混乱しないように(1)のみを情報共有するのではなく、(8)まで用意をして相手方と共有をしておいた方が良いかもしれない。
清算書の作成や案内方法は各人によって異なるだろうが、筆者の場合は顧客が「お金の流れを理解して」「いくら受け取り、支払うのか」「決済時に何をすれば良いか」が分かることが重要と考えているので、(5)から順に(8)までを先に記載して、(1)から(4)は後ろに添付するようなスタイルを取っている。先に結論を述べて、後に根拠を述べた方が良い。
A4サイズで2~3枚程度で作成、顧客に送付する場合はPDFで添付する。新人の頃はメールで羅列に書いて送付することがあったが、顧客も結局、それを印刷して持参してくるので、それなら最初から印刷対応で作成しておいた方が良い。メールやSNSで事前に送付しておき、「見ても良く分からないです」と言われたら訪問するか、電話で説明をするのが良いだろう。
【プロフィール】
はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。
2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。