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創刊75年企画 ~残せる器~空き家追跡 空き家問題を〝見える化〟 官民連携はデジタル化がカギに

 空き家問題の解決に向けた取り組みが進む。ただ、人口減少と反比例するように問題は広がり、増え続けている。「空き家バンク」の活用や法制度改正が進展する中、より一層の〝実効性〟を目指し、自治体の信頼・信用力と民間のノウハウを生かした〝官民連携〟の挑戦が始まっている。それは、不動産・建設業界が応えるべき循環型社会に貢献する〝社会的責任〟の今後の一つの姿になるのかもしれない。(坂元浩二)

 

 国土交通省は、21年度に「住宅市場を活用した空き家採択モデル事業」(以下・国交省モデル事業)で、「地域の空き家の可能性『見える化』プロジェクト」を採択した。

きっかけをつくる

 同プロジェクトを推進するFANTAStechnology(東京都渋谷区、以下・FANTAS)は、「空き家所有者が情報収集に動くには手間や負担がある。地域をよく知り、接点をつくりやすい安心感のある行政と、民間の最新技術を融合したアプローチが効果的ではないか」(FANTAS事業企画グループの森山真一氏)と考えた。

 FANTASは15年に「空き家再生事業」を開始以降、これまでに約160戸を手掛け、利活用のための調査や費用算出の各手法を確立。空き家再生の実績を積み上げてきた。単に、売りましょう、貸しましょうの〝結論ありき〟ではない。空き家の現状を知り、可能性を〝見える化〟させて、所有者に考える〝きっかけ〟を提供している。

 これらのノウハウを基に、官民連携の新たな取り組みを始めた。埼玉県横瀬町(富田能成町長)を皮切りに、広島県坂町(吉田隆行町長)、茨城県常総市(神達岳志市長)、福島県昭和村(舟木幸一村長)などと〝地方創生〟を実現する観点も併せ持った共創連携の協定を締結している。

漠然とした意識で

 その調査の中で、「実は多くの所有者は〝どうにかしたいのだが方法が分からない〟ため、〝とりあえずそのまま〟にしていたという声が多かった。漠然とした意識でリスクも知らず、明確な理由があって空き家にしているのではない」(森山氏)ことが分かった。そこで、客観的な立場から協定先の各市町村内の空き家を無償で調査した。資産価値や修繕費用、周辺相場などの各種情報と併せて30ページ程度の報告書にまとめて、物件の〝現在位置〟を〝見える化〟した。

 事業者の一方的な利活用の提案や、単に購入検討者と物件のマッチングとも違う。具体的な情報を提供し、主体的に考えられるよう〝道筋〟を示す。これを空き家問題の解決の糸口とした。実際に空き家バンクの登録や解体業者の紹介にも発展している。FANTASは、そこで生かされた独自の最新技術を生かした空き家・中古戸建てプラットフォーム「repro」などを通じて成功事例を積み、地域の不動産会社や工務店との連携を図り、中古流通の促進につなげていく考えでいる。

解決と予防に具体案提示

 空き家の利活用に際し、解体して更地にするのは選択肢の一つ。クラッソーネ(名古屋市中村区)は、全国約1600社の解体業者とマッチングし、一括で見積りを依頼できるウェブサービス「クラッソーネ」を運営している。

 見積りを比較検討して、電子契約でオンライン上で完結できる。解体業者は下請けから脱して〝直請負〟の機会になる。

費用はいくら掛かる

 クラッソーネは調査から、「解体の費用感が分からず、具体的な検討が進まない」などの声を受けていた。「一般的に建築の元請け業者に一括される解体工事を注文主が直接に発注することはない。注文主から現状で一番〝遠い存在〟になっている」(クラッソーネ社長の川口哲平氏)。

 そこで、その費用感を知ってもらう、同サービスの「AI(人工知能)による解体費用シミュレーター」を活用し、兵庫県神戸市(久元喜造市長)と実証実験に着手。前述の「国交省モデル事業」にも採択されたことが節目となり、本格的に官民連携を始めた。愛知県南知多町(石黒和彦町長)のほか、現在約30自治体と連携協定を締結。AIで簡便に解体工事の概算費用を算出し、空き家の利活用に向けた具体的な検討の早期化を促している。2月にはFANTASとも業務提携した。

 空き家問題は、「虫歯と同じで痛ければ治療するが、自覚症状がないと放置してしまう。自然治癒はしない。空き家も、解決の意思決定が遅れればその分、先送りされて問題は更に大きくなる」(川口社長)。

 解体費用の〝診断〟は、次の段階に進む〝気付き〟になる。「官民連携の市民サービスとして提供し、問題の解決に向けた気持ちのハードルを下げている。不動産会社と連携も強めたい」(クラッソーネ執行役員の山田浩平氏)など、既存ストックの資産を再生・循環する文化を各地で育めるよう、すべての自治体との連携を目指している。

相続を機会として

 また、空き家の多くは〝相続〟が原因だったことが少なくない。簡便な方法で適正に手続きできれば、空き家の発生を防ぐ可能性が高くなる。AGEtechnologies(東京都千代田区、以下・AGE)は、その手続きをデジタル化する「そうぞくドットコム不動産」を提供している。「富裕層の節税対策や相談は難易度が高く、税理士や弁護士の士業の職分にある。ただ、生前贈与を含め、定型的な手続きを効率化してコストの縮減を図れるのは、ITの得意分野となる。負担に感じられる手続きを簡便にするニーズは強い」(AGE社長の塩原優太氏)と考えた。

 相続人や不動産の数にかかわらず定額料金とし、戸籍などの必要情報を全国から「集める」、申請書類を自動作成して「つくる」、自宅に居ながらオンライン手続きで「非対面」をかなえて、本人申請を後押ししている。クラッソーネとも連携を始めた。解体工事も同時に検討できる仕組みを整えて〝空き家予備軍〟の防止の支援に取り組んでいる。

不動産会社と共に

 24年4月には、相続登記が義務化(相続を原因とする所有権移転登記)される。「行政は意識啓発はできても、より踏み込んだ直接的方策には制約がある。解決に関心の高まっている各自治体との連携を前提に現在、協議を始めている」(AGE事業開発の伊藤沙季氏)。今後は相続登記などに際し、具体的な利活用方法を提案できる不動産会社とも接点を持ち、相互送客などの形で連携を深めていく。

役割で連携する

 現在の居住地と空き家が遠隔地にある関係もあり、関心や意識が低くなりがちだった所有者が、最新テクノロジーを活用し、情報を得て、手続きもしやすくなってきた。空き家を放置すると、景観を損ね、市民が不安になり、まちの活力すらも衰退させかねない。接点づくりの行政と最新技術を持つ民間との連携で、具体的な解決のストーリーを描く。

 そこに、不動産・建設会社の的確な利活用策の支援が加われば解決は加速する。そこから〝新たなビジネス〟が生まれるかもしれない。